同園がインクルーシブ教育を実践する理由について、小島澄人園長はこう話す。

本訴訟の原告の光菅和希さん、父親の伸治さん、母親の悦子さん本訴訟の原告の光菅和希さん、父親の伸治さん、母親の悦子さん  Photo by M.F.

「学校教育は人を作るため、生きる力を養うためにあります。生きる力で一番必要なことは、人とうまくかかわれるようになることです。そのためには、障害があってもなくても子どもが同年代の人と同じ場所で、同じ空気を吸って一緒に過ごすことが必要です」。

 そのことによって、子どもたちは人を受け入れる力、美しいものを見て感動する力、人を認める力、人を愛する力などの「非認知能力」を身につけるという。これまでの教育では成果や数値を求める「認知能力」が重視されてきたが、2018年度から学習指導要領に非認知能力にも重きを置く方向が示されている。

 在園当時の和希さんについて、小島園長は「最初はバギーにじっと座ったままでしたが、やがて、私が『おはよう!』と声をかけると視線を動かすようになりました。園ではお友達のことをよく見ていましたよ」と思い出す。特に友達と一緒に過ごす時間は笑顔が多かったという。地域の小学校でもそんな生活ができると期待していた。

重度障害児は特別支援学校へ
就学相談の初回で決めつけた

 かつて、障害のある子どもは、原則的に特別支援学校(一部の学校は現在でも養護学校の名称を使用している)へ就学していた。例外的に教育委員会が認定した場合、人工呼吸器を装着している重度の子どもでも地域の小中学校へ就学した。

 だが、2013年の法律(学校教育法施行令)改正以降、就学先の決定は国連の障害者権利条約、および、障害者基本法や障害者差別解消法のもと、障害を持つ子どもも総合的判断(※1)によって地域の小中学校へ入学できることとなった。総合的判断の中で、特に本人と保護者の意見は最大限尊重(可能な限りその意向を尊重)されることになっている。

 現在、障害のある子どもは(1)小学校の通常学級、(2)(1)に在籍しながら、特別に必要な指導を受けられる通級、(3)小学校の特別支援学級、(4)特別支援学校、のいずれかで教育を受けている。医療的ケアが必要な子どもも同じだ。このため、地域の教育委員会は障害児が就学先を決めるための「就学説明会」と「就学相談」の機会を作っている。

 光菅さんも就学説明会に出席後、地域の小学校と特別支援学校を順次、見学するようになった。7月下旬には川崎市教育委員会(以下、川崎市教委)による就学相談を受けた。担当者が保護者として夫妻の考えを聞くとともに、心理職が和希さんの行動観察をした。

 初回の就学相談時、夫妻は「いろいろな可能性があり、どの学校にも利点や欠点があるだろう。どこが息子にとって一番いいか、選択肢を狭めることなく相談していきたい」と考えていた。また、幼稚園のときと同じように「地域の学校の健常児の中で過ごさせたい」という希望があることも話した。

※1 本人の障害の状態、教育上必要な支援の内容、地域における教育体制の整備の状況、本人と保護者の意見、専門家の意見、その他の事情