川崎市教委の就学相談の担当者は夫妻の意見に同意しつつ、その後の面談で毎回、特別支援学校への入学も検討するように促した。だが、夫妻は地域の小学校へ入学したいと伝え続けた。その理由について、光菅さんは「同年代の障害のない子どもたちと一緒にいる時間が息子の学習意欲を高めていることを痛感したからです。息子が一番成長できる環境を考えました」と言う。

 一方、川崎市教委は夫妻の意見に理解を見せつつ、実は、関係者間と特別支援学校への入学を調整していた。当初、特別支援学校の校長は「人工呼吸器装着の子どもは訪問籍(教員が自宅を訪問して教育指導をする)から始めましょう」としていたが、光菅さんが家から離れた学びの場にこだわっていたため、市教委は通学籍(学校へ通学すること)へ変更した。

 そして、2月末日、夫妻は特別支援学校への入学が決まったと告げられた。理由は(1)川崎市では人工呼吸器を装着した児童が地域の小学校へ入学した前例がないため、安心・安全な学校生活を確保できない、(2)和希さんには障害に応じた専門的な教育が必要と判断した、との説明だった。

 夫妻はこの決定に驚きとショックを受けた。(1)はこれまでも地域の幼稚園に通い、通常の生活をしていたからだ。(2)は特別支援学校の専門的な指導(後述)より集団生活のよさを希望していた。夫妻はこれまでの経緯の事実確認と詳しい説明を求めたが、納得のいく理由を聞くことができなかった。

 この報告を受けた神奈川県教育委員会(以下、神奈川県教委)は川崎市教委と夫妻の間で合意形成ができていないと判断し介入した。取材によれば、この時期の神奈川県教委における専門家(教育学・医学・心理学)を交えた委員会では、光菅さんの事例について「地域の学校がいいか、特別支援学校がいいかは、保護者が子どもにどんな教育をさせたいかという価値観によるもの。どちらがいい悪いの問題ではない」と意見が出ていたと聞く。だが、3月28日、夫妻は特別支援学校就学通知書を受け取ることになった。

 光菅さんがやむなく法律相談をしてから明らかになったことは、本来、就学相談時に地域の学校への就学を希望する場合、手続きとして主治医の意見書を取り寄せたり、受け入れ校と必要な支援や合理的配慮について相談したりするなどの流れができるという。公立学校では障害のある子どもに「合理的配慮」を提供することが義務付けられているからだ。合理的配慮とは「障害のある人が障害のない人と平等にふるまうために必要な変更や調整(※2)」で、例えば、和希さんの場合、学校看護師等の配置、施設や設備の整備、教材等における配慮を指す。

 だが、今回、光菅さんが受けた就学相談では、この合理的配慮の検討が欠落した。理由は、初回の就学相談時から担当者が「いままで相談を受けた中で、最重度の障害のある子どもと判断した」と裁判で証言したことなどから、川崎市教委はすでにその時点で「特別支援学校へ就学するべき」と決めつけ、合理的配慮を検討する必要がないと考えていたことを示唆した。

※2 『私たち抜きに私たちのことを決めないで 障害者権利条約の軌跡と本質』(藤井克徳著、やどかり出版)を参考に筆者が記述