プロダクトマネジャーを目指すときにも、最初から必要な全ての知識を持っている必要はありません。自分が弱いと思う分野については、後から学べば良いのです。例えば、事業企画担当のような職種からプロダクトマネジャーを目指すのであれば、簡単なプログラミングやデザインの手法を習得する、あるいはエンジニアがプロダクトマネジャーを目指すのであれば、事業立案の手法や事業ドメインに関する知識を習得する、といった具合です。

 現時点で即戦力としてポジションに必要なスキルは、もちろん不可欠ですが、プロダクトマネジャーとして何より重要なスキルは、新しいスキルを身に付ける力。スキルを習得するための基礎教養的なスキルです。プロダクトマネジャーに必要な知識は常に変化します。プロジェクト(プロダクトではなく)管理の手法にせよ、技術やデザイン技法にせよ、その都度、新しいことを学ぶ能力が今ある知識より求められるのです。それから、成長への意欲も大切です。

 大企業に所属する50代の人には、新しいことを勉強していない人も多く見られます。いい大学を出て就職し、地頭は良いはずなのに、組織の中では「成功した前世代の前例を踏襲し、前に行われていたことを繰り返していれば良い」という環境に長い間慣らされていたからだろうと思います。その点、若い人は意欲的で、よく勉強していると感じます。

 プロダクトマネジャーにとって経験は必要ないのかというと、あった方が良いことは確かです。しかし、そのままでは使えない、もしくは成長にとって害になる経験もあって、そうした状況ではアンラーンが重要です。アンラーンとは、学んだことを捨てること、リセットすること。好条件でうまくいった経験が抜けず、そこから離れられないのではダメで、経験をもとに今使える知識として昇華して活用する「メタ化」が必要なのです。

 プロダクトマネジャーが、信頼できる人であることは大切です。しかし、経験者だというだけで信頼してしまうのではいけません。日本では、経験者に対して意識的・無意識的に「この人の言うことだから」と信頼、あるいは忖度しがちですが、その人の話しているビジョンの内容やアイデアの新規性、可能性を見て評価すべきです。

 企業の業種や規模、組織体系により、プロダクトマネジャー的な役割を担う人の肩書きは、事業責任者とされたり、プロデューサーと位置付けられたり、さまざまです。プロダクトマネジャーが注目されているから、といって、これからプロダクトマネジャーを置こうという企業もあるかと思いますが、プロダクトマネジャーという名の職種を置いても、ただの調整役になっている企業も数多くあります。むしろ「昔から似たようなことを違う職種で行っている」という企業であれば、新たな職種を設けるのではなく、既にある職種の役割を見直せば良いでしょう。

 プロダクトマネジャーに真に求められているのは、プロダクト、事業を成功させるためにチームをまとめ、作り上げていくこと。最終的にはオーナーシップ、主体性、起業家精神を持ち、成功への執念を持つことが大切だと私は考えます。

(クライスアンドカンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)