横浜IRの主導権は
日本企業連合が持つべき

――セガサミーと協業して横浜のIR(統合型リゾート)構想にも乗り出すそうですが、どんなプランをお持ちですか。

森岡 やはりですね、IRやるなら、日本の輸出産業にしないとダメですよ。IR産業で儲けている会社というのは、いまアメリカ系か中国系なんですね。IRはいま世界にいくつも市場があるけれど、日本系のIR事業者はゼロです。IRというのは、その地域のためだけにやるのではなくて、日本のために、将来外貨を稼げる事業としてつくれるか、これが戦略的な目的だと私は思っています。今回のIR合法化は、日本にとって輸出可能産業としての経験を獲得するための貴重な場なんですよ。日本のIRで経験を積み、成功したあと、海外のIRの立ち上げのときに、そのコンペに参加して競争できる能力を持った会社をつくれるかということです。

外資のためにやっている事業だったら、会社がうまくいったときに、そのエクイティのメリットは、日本以外のところに持って行かれてしまうんですね。だから主導権は日本企業連合が持つべきだと思います。

いま日本の事業者の中で、そこに一番覚悟を持ってらっしゃるのは、セガサミーさんだと私は判断しました。里見治会長とも直接話しましたが、長年にわたる覚悟がある。彼らは、IRやカジノという存在に対しての誤解、逆風に負けず、すでに韓国の仁川にあるカジノリゾートの経営主体になっていますからね。

腰が引けている日本の企業が多いんですよ。なぜかというと、カジノは、その会社が反社勢力とつながってないかどうか、ものすごくお金のやり取りを調べられる。その企業の重要人物も、個人レベルまで徹底的に調べられる。ネバダライセンスという世界一厳しい基準があるんです。日本でネバダライセンスを取っているのは、二つの会社しかない。しかも最初に取ったのはセガサミーさんです。里見会長も身体検査を受けてるんですよ。それでクリーンだって判定されている。しかも東証一部上場会社であるっていうことを、世間の人は、もっと知るべきなんです。

かつてユニバーサルという会社が主導して、大阪市と結託して、USJという会社の最初の芽を出したんですよ。これはゼロから1を生み出したところなんで、大変な敬意は持っています。ただ、数年も持たずに大失敗して経営破綻したわけです。

なぜ大失敗したか。アメリカ人がアメリカの常識を、日本のマーケットに教えてやるっていう態度で来たからです。これは、よくあることなのです。アメリカ人が日本のマーケットの特質性に対しての謙虚さなしに日本に入って来たら、必ず失敗する。日本というのは、全国津々浦々、簡単にいうと家の近くにカジノがあるような特異なマーケットなんですよ。歩いて5分、10分のところにパチンコという競合があるマーケットでカジノを成功させるノウハウは、カジノが拠点集約されて管理されてるアメリカやシンガポールのノウハウとは違うんです。

日本において、どうやってカジノを消費者の頭の中で棲み分けさせるか。それには極めて深い消費者理解が必要です。日本人特有の心理分析が必要で、そういうノウハウは、手前味噌で申し訳ないですが、間違いなく刀が世界で一番持っている。そのノウハウをぜひ、横浜IRの成功にセガサミーさんと志を合わせて、やらせていただきたい。カジノは何か悪いイメージを持つ人もいるようですが、我々の構想は違います。ジェームズ・ボンドが遊んでいそうなゴージャスな遊び場だと思ってください。そこに来る人はみんなおしゃれで、カッコよくて。制御された中で、大人の嗜みとして遊ぶ、極めて上流のカッコいい世界を我々はつくります。誰もが憧れる世界です。そこに行く自分はイケてるとみんなが思えるような、カッコいい世界観でつくりたい。

ノーマン・フォスターってご存じですか? 私は世界最高のデザインハウスだと思っています。メモリアルな建築物を世界中でつくっている集団です。ノーマン・フォスター社との皆様とも、喧々諤々といろんな議論をさせてもらっています。彼に日本の消費者のことを理解させて、この方向で飛んでくださいというシナリオを書くのが、我々刀のマーケターの仕事です。刀がいるセガサミー連合とやらせていただければ、必ず成功させます。そのことは横浜市の皆さんに、声を大にして伝えたい。

日本に集客施設をつくるときに一番まずいのは、需要以上に投資してしまうことです。需要予測の力がないと失敗するんですよ。横浜のIRの需要予測をさせたら、世界で一番進んでいる圧倒的な能力を持っているのは刀です。我々に勝てる人たちはどこにもいない。申し訳ないけれど、本当にそうなんです。

このコンソーシアムがうまくいったら、横浜IR株式会社は、たとえばべつの地点で将来起こるカジノコンペティションに出て行って、そこであがる儲けを本社機能のある横浜にどんどん集めてくる。そういう日本の成長産業に、IRビジネスを変えていく。

カジノというのは、大人の嗜みですよ。そう割り切ってちゃんと制御できる人が来ればいいんです。ギャンブル依存症の対策はもちろん可能な限りやりますが、確かにゼロにはならない。しかし、そんなことを言ったら、いま、公営ギャンブルで競馬、競輪、競艇があるじゃないですか。パチンコもあるじゃないですか。それを置いておいて、カジノで起こる中毒者数の増加というのは、ミニマルです。そのミニマルがあるからと言って、巨大な果実を取らないというのは、車にはねられるかもわからないから、家を一歩も出ないと言ってる臆病者とまったく同じです。国として、戦略的な判断ができる大人の社会であれば、これをやらないことがいかに愚かであるかというのは、わかるはずです。

日本は経済もそうだけど、心も豊かにならないといけないと思う。日本に1兆円規模の投資が起こるチャンスなんて、なかなかないわけですよ。しかもこれが起こったら、海をまたいで行かなくても、ラスベガスにあるような、とてつもない感動を呼ぶライブ・エンターテイメントが見られる。USJでも頑張ったんですけど、10億、20億でショーをつくるのが精一杯なんですね。

でもIRなら、ショーにも100億円のような巨大な予算をかけられるんですよ。そんなショーを日本の子どもたちに見せてあげたいじゃないですか。文化とか興奮とか、そういう思いがね、子どもの感性に影響を与えるんです。そうやって社会、文化が発展していくのです。そんなサイクルをつくっていく大きなチャンスでもあります。世の中のお金持ちが喜んで、大人の嗜みでお金を落としてくれる。その原資を生み出す装置の一つが、IRなんです。