結論を先取りして述べれば、「検査していないから患者が少ない」という議論は正しい。しかし、それが患者数の統計に非常に大きな影響を与えているとまではいえない。また、他の説を排除するものでもない。本稿はまず、なぜ日本で検査数が少ないのかを論じた後、検査数と感染者数の関係を説明する計量的分析の方法を説明し、その結果を解説する。

なぜ日本では検査数が少ないのか

 感染症の専門家によれば、治療法がないのに検査しても意味がない、インフルエンザであれば簡単に検査して陽性の場合はタミフルやリレンザを処方すればよいが、コロナ患者にはどうしようもない、ということらしい。検査数が少ないことに関し、国立感染症研究所所長が「市民の皆様へ 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査に関する報道の事実誤認について 2020年3月1日」という文書を発表している。これによれば、検査は感染の拡大を抑えるためにしているのだから、むやみに検査数を増やす必要はないということである。

 しかし、これでは何を言っているか分からない。「普通の検査は病因を見つけて患者を治すためにしているのだが、新型コロナウイルスは治療法がないから、その意味での検査をしても仕方がない。だから、意味のない検査に医療資源を使うべきではない」と言ってくれて初めて分かる。感染症学者は、「だから、検査をするよりも感染者の集団(クラスター)を追い、感染者を確実に隔離する方が感染症の爆発的蔓延を防ぐことができる」と言うのである。

 検査しても分からない感染者が多数いる。検査で陽性と正しく認定できるのは感染者の7割程度らしい(「新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの? 感染管理の専門家に聞きました」BuzzFeed News 2020年2月26日)。すると、本当は感染しているのに陽性にならない感染者に、行動の自由のお墨付きを与えることになる。これはむしろ感染を広げることになりかねない。

 また、陰性であるのに陽性になる人も少なからずいる。本当は陰性の人に対して、2週間の自宅待機など社会生活上の不便を与えることは好ましくない。また、発熱など疑わしい人を集中的に調べてもそれほど陽性者は増えない。だから、陽性者は本当に少ないのだという。

 しかし、現在では発熱が続いてもなかなか検査をしてくれないという。検査されないと、家族や職場の人に感染することを恐れ、発熱に苦しみながら医者にも行けないことになる。検査して陰性であれば安心できるし(検査結果が確実でないので安心できないのかもしれないが)、隔離することによって感染を防ぐことができる。ドライブスルー検査など、特別な場所に検査所を設けて多数の人を集中的に検査すれば検査数を増やすことができる。

 最近では、感染症学者も検査しないことに固執しなくなったように思える。また、検査が足りないことによって病院内で感染することを恐れる感染症学者以外の医師が、検査を求めるようになっている(「PCR検査、都内10カ所に 月内にも 医師会、自治体連携」東京新聞、2020年4月18日朝刊)。