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データサイエンティストの冒険

現場の状況に即した打ち手を返すためのアナリティクスとは

工藤卓哉 [アクセンチュア]
【第2回】 2012年8月27日
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 前述した「備えよ常に!」のように、自然災害などの不測事態に「事前」に備える行動の背景には、事前の予測モデル(3)がある。思考によるシミュレーションを通じて、来るべく特定の事象(説明変数。ここでは降雨量、洪水や被災した水没地区の人口動態情報など)に対して、備えるべきは何か(目的変数。必要な装備品など)を求めている。

 大震災の現場のように緊急を要する場合は、静的な予測モデルを再構築している悠長な暇はない。したがって、(1)や(2)のアプローチが俄然重みを増す。被災地の現状をいち早く把握するためには、現状把握型の要約統計量を基に、打ち手を即時展開することも重要なのだ。

 統計学は科学であり、感情論や主観は禁物である。しかし第1回でも触れたFarzadや故赤池先生の言葉を借りると、やり抜く気持ちや目標達成への執念、そして情熱は優先される。アナリティクスやIT自体が世界を変えることは無くても、強い意思を持つものが、それを武器として使うことで世界を変えられる。

世界に称賛された現場力をアナリティクスに活かす

 災害対応のように、人命が関わるリスク管理については、「備えよ常に!」が重要な基本姿勢だと述べたが、一方で、ビジネス戦略としては「全量備えればいいじゃないか」という乱暴な議論はナンセンスだ。どのようにしてコスト効率的に備えるべきかが検討課題となる。ビジネス戦略も公共政策も、予測可能な大半の事象を当てることはさほど難しくない。問題は、予測困難な、非常に発生確率の低いリスクや事象をどう捕捉し、確度の低い領域に対して、有限の経営資源でどう備えるかである。

 それはまさしく経営判断の問題である。ただし、経営層の意思決定をトップダウンで展開するというアプローチが日本において有効とも思えない。そもそも、欧米と比べ、日本企業の多くは、いまだデータの高度な活用のための客観的かつ科学的経営の情報基盤構築への投資に意欲的ではない現実がある。残念ながら、それは、経営者自身が客観的な統計情報に価値をおいているか否か、といった価値観の違いを反映したものだ。

 価値観の違いは意思決定プロセスに対する基本思想に現れ、経営管理手法も当然異なってくる。統計を駆使した数理モデルに基づいたサービス領域で圧倒的優位性を誇るグーグルのエリック・シュミット会長は、数理計算科学領域で名門カリフォルニア大学バークレー校の博士号を持っていることはあまりにも有名だ。

 こうした企業経営者の経営管理における基本思想の違いもあるが、筆者は欧米には欧米の、日本には日本のアナリティクスがあっていいと考えている。つまり日本固有の経営的特徴、とりわけボトムアップ型の経営ガバナンス構造に即した、より現場が使いやすいアナリティクスのかたちを構築できればいいと考えている。

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工藤卓哉
[アクセンチュア]

Accenture Data Science Center of Excellence グローバル統括 兼
アクセンチュア アプライド・インテリジェンス マネジング・ディレクター
ARISE analytics Chief Science Officer (CSO)

慶應義塾大学を卒業しアクセンチュアに入社。コンサルタントとして活躍後、コロンビア大学国際公共政策大学院で学ぶため退職。同大学院で修士号を取得後、ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。在任中、カーネギーメロン工科大学情報技術科学大学院で修士号の取得も果たす。2011年にアクセンチュアに復職。 2016年11月より現職。 データサイエンスに関する数多くの著書、寄稿の執筆、講演活動を実施。


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近年テクノロジーと数理モデルによってもたらされるアナリティクスが、ビジネスを大きく変えようとしている。データの高度な活用から次の打ち手を見出す力、アナリティクスの決定的な優位性を最前線から解説する。

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