日本の制度は
面倒くさい

新宿のブシロード本社インタビューは東京・中野のブシロード本社で、マスク着用、3密回避の上で行われた Photo by Ryuko Sugimoto

 支給する率はそんなに高くなくて、給与の25%などとなっています(注・日本の雇用調整助成金では、給与の最低6割を休業手当として補償する)。ただシンガポールの制度がすごいのは、「事業が休業していようがいまいが、従業員が休んでいようが在宅で働いていようが、関係なくもらえる」というところです。

 背景にあるのは、シンガポールは米国と同様、簡単に人を切れる社会ということだと思います。一定の手順は必要ですが、日本と比べるとはるかに簡単に解雇できる。だからこそシンガポール政府は今回、「とにかく人を切らないでくれ」って先手を打った。シンガポールでは現在、外国人労働者の感染が深刻化していますが、4月上旬に雇用支援策を発表したときは感染そのものはうまく抑えられていた。それでも雇用には先手を打ったわけです。

 シンガポールに比べると、日本の制度はすごく「面倒くさい」ですね。制度や手続きが複雑過ぎる。複雑がゆえに不正を働く余地もあるし、政府も不正がないか検証しようとする。日本のやり方だと、業務メールを返しただけでも働いたことになって、後で厳しい指摘が入ってしまうんじゃないか。そういう懸念を企業に感じさせます。シンガポールなど海外の仕組みはもっとシンプルですよ。

――もしこの助成金がなければ、シンガポール法人の雇用を見直したと思いますか。

 シンガポールでやっていたビジネスは売り上げが2~3割落ちそうなので、従業員も2割ぐらい減らしたほうがいいんじゃないか、という発想にはなりますよね。

 ただブシロードにとって、シンガポールはすごく重要な海外拠点です。米国は最悪の場合、撤退しても何とかなる。シンガポールからかなりコントロールしている出先機関の要素が大きいから。一方でシンガポールは心臓部分。一度撤退したらもう1回作るのは大変になる。ビジネスの心臓部分は、人を含めて手放しちゃまずい。

――どの辺が大変ですか。

 人集めですね。人材って、歴史も含めた価値じゃないですか。ノウハウの蓄積も重要だし、取引先との人間関係もある。そういうものを持った人を1回切っちゃったら、次は畑を焼いて耕し直して、もう1回種をまくような作業が必要になります。だから人を切るよりは、残して生かして、可能なかぎり新しいものを生み出す、まだなんとかなる事業を膨らませてシフトしていくほうに振り向ける。

――雇用を維持することは労働者のためだけではなく、経営にとっても意味がある。

 そうですね。そして実際のところ、人を残してやれることはいっぱいあるんですよ。具体的に今やっているのは、デジタルへのシフトです。例えばアナログでやっていたライブをオンラインにしています。コミックも、電子書籍をもっとやるべき。スマートフォンのゲームなどアプリももっと力を入れます。デジタルシフトはまだまだこれからですが、効果は出始めています。