派遣保育士を休ませない人材会社の強欲写真はイメージです Photo:imagenavi/gettyimages

政府は14日、働く人への休業手当を助成する「雇用調整助成金」を拡大すると発表した。企業と働く人の双方にとって朗報ではあるが、そもそもこれまで休業手当の受給が十分に広がらなかったのはなぜなのだろう。休業手当を受けられず結局、緊急事態宣言発令の間もほぼ勤務し続けた派遣保育士が、人材派遣会社との奇っ怪なやり取りを打ち明けた。(ジャーナリスト 藤田和恵)

「図々しく出勤して」
派遣元会社の無理筋

 派遣先からは「休んでほしい」、派遣元からは「とにかく出勤して」――。

 京都府内のある市立保育園で働く派遣保育士の女性Aさん(40代)はこの1カ月間、そんな板挟み状態に陥ってきた。本来ならコロナ禍でも働かなくてはならないエッセンシャルワーカーたちの子どもを預かる大切な仕事のはずだ。

 Aさんは「緊急事態宣言が発令された後は、教室に子どもがゼロという日もありました。保育園側からは『休んでほしいけど、(派遣先である)保育園からは強制できない』と言われ。派遣会社の担当者からは『とにかく仕事を見つけて図々しく出勤してください』と言われ。あまりに居心地が悪くて、精神的におかしくなりそうでした」と振り返る。

 なぜ、このような異常事態が起きたのか。

「今日、帰ってもいいよ」――。出勤したばかりのAさんが、正規雇用の保育士からそう声を掛けられたのは、緊急事態宣言の発令から1週間ほどが過ぎた4月中旬のことだった。園側が登園自粛を呼び掛けていたこともあり、子どもは通常の半分ほどに減っていた。世間では「人々の生活を支える不可欠な仕事」などと言われているのに、自分は必要とされていないのか? その瞬間、Aさんの胸中にはさまざまな思いが交錯したという。

「来たばかりでそんなこと言われても。せめて前もって言ってもらわないと。こっちは時給で働いてるんだし。でも、たしかに仕事はなさそう……。子どもたちやほかの職員への感染リスクを考えても、保育士の数は少ない方がいいはず。これは暗に『帰れ』と言われてるんだろうな」

 迷った末、この日は1時間だけ働いて帰宅した。