数多くの情報番組やバラエティ番組に出演して、硬軟自在に的確なコメントをくり出し、全国各地で笑いの絶えない講演会をくり広げ、大学の教職課程では教師の卵たちを前に実践的な教えを展開する齋藤孝 明治大学文学部教授。
むずかしい話も、わかりやすく、ゆかいに、さらに深堀りして教えてくれる『アウトプットする力』は、まさに日本最高峰。その齋藤孝先生が、「話す」「書く」「発信する」が劇的に成長する85の方法を教える。
インターネットの情報でインプット過剰になっている今、勉強でも仕事でもプライベートでも、成果を最大化するには、実は「インプット1:アウトプット9」の“超アウトプット優先”がいちばん効果的。
アウトプットは練りに練った1本より「数」で勝負。齋藤式「15秒」アウトプット術で、成果を最大化する「知的発信法」を身につけよう!

アウトプットの真髄は「能」と「落語」に学べPhoto: Adobe Stock

「アウトプットするためのインプット」で思い出すのは、芸事の修行です。

 私たちは寄席で落語を聞くとき、「うまいな」「面白いな」などと思いながら、純粋に噺はなしを楽しんでいます。これは完全に受け身の状態です。

 仮に一席終わったあと、突然名指しされて「今聞いた噺を全部繰り返してみてください」と言われたらどうでしょうか?

 もちろん、「そんなのムリ!」と思いますよね。

 でも、落語家さんの世界では、師匠が弟子に教えるとき、同じ噺を1回か2回しか実演してくれないのだそうです。

 今はCDやDVD、インターネットもありますから、師匠の高座を自宅でチェックできる環境はそろっています。しかし、昔はそういったツールがありませんでしたから、落語家さんたちは稽古の場で噺を覚えるしかありませんでした。

 1回か2回で覚えて再現できないことには、落語家失格となってしまいます。当然、相当に集中力を高めて稽古に臨んでいたことでしょう。

 似たような話を、能の先生からもうかがったことがあります。

 その先生の修行時代はテキストのようなものはなく、師匠が実演した節まわしを完全に覚えなければならなかったそうです。

 しかも1曲や2曲ではなく、何十曲も覚える必要があったのだそうです。

 多くの芸事がこのようにして継承されてきた歴史を考えると、きっとそこには合理的な理由があったのではないかと思います。