日産自動車の窮地が鮮明になっている。コロナショック以前からの改革遅れが付けとなって表れているのだ。そんな有事に、「あるワンマンプレー」によって内田誠社長が経営上層部の反感を買い四面楚歌になっているという。日産経営陣に何が起きているのか。また、日産を含む国内自動車メーカーには、コロナショックに耐え得る企業体力が残されているのだろうか。特集『電機・自動車の解毒』(全17回)の#06では、自動車メーカー7社のリーマンショック前とコロナ前の収益構造の徹底比較を行った。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
グプタCOOとの連携とれず
内田社長のワンマンプレー
2020年3月期通期連結業績予想について──。4月28日、日産自動車の発表した「1枚のニュースリリース」が波紋を呼んでいる。
「長文のリリースを丹念に読み込まないと赤字に転落したことがわかりにくい。こんなに回りくどい言い回しになっている業績の下方修正など見たことがない」
そう日産幹部が呆れるほど、お粗末な文面ではあった。シンプルに事実だけをまとめれば、20年3月期に営業利益850億円、当期純利益650億円と黒字を確保する予想を出していたが、新型コロナウイルスの感染拡大による影響などにより、営業損益と当期純損益が共に赤字に転落するというもの。また、5月28日に発表される中期経営計画の中身次第で、さらに業績悪化リスクがあるというものだった。
シンプルに修正すべきところを、「可能性が生じる」「可能性がある」「正確な影響の度合いは精査中」という言葉が並ぶばかりで、結局、リリースには「減益となる」「赤字に転落する」という言葉が使われていない。業績の下方修正が行われる際に開示されることが多い「業績見通しの“変更前”と“変更後”の売上高・利益の増減」も記されていない。
日産関係者によれば、このリリースは内田誠・日産自動車社長が、ナンバーツーのアシュワニ・グプタCOO(最高執行責任者)に事前に深く相談することなくまとめられたようだ。日産の言い分からすれば「不確定要素が多い」ということになるのかもしれないが、数字が固まっていなかったのは21年3月期見通しではなく、すでに決算が締まった20年3月期の数字である。
ちなみに、日産など自動車(完成車)メーカーの業績が「底」になるのは21年3月期1Q(4〜6月)である。コロナで悪化した20年3月期4Q(1〜3月)の中国事業の損益が“期ズレ”で会計処理されるのも、日米欧の主要国事業の業績が最も落ち込むのも「21年3月期1Q」である。日産はコロナの影響が本格化する前に、少なくとも1000億円程度の最終赤字に転落する。
この“リリース騒動”は、前出の日産幹部のみならず、投資家や取引先金融機関にも日産上層部に対する不信感を植え付けた。
それも無理からぬ話だ。リリースに書かれている「コロナの感染拡大が業績悪化の主因」だとは、大方の日産関係者が信じていないからだ。20年3月期の決算が赤字に転落する主因は、日産上層部の経営の混乱による“人災”だと見る向きが多い。実際に、このリリース事件一つとっても、内田社長とグプタCOOとの連携が取れていないことは明らかだ。
それだけではない。日産経営陣や取締役会の間で、内田社長の「あるワンマンプレー」が問題になっているという。どういうことか。