「なぜ?」と考え続ける人だけが、参謀へと成長する
ただし、私は、単なる「部下」にとどまっている人を、「参謀」として頼りにすることはありませんでした。
なぜなら、「部下」とは、本来、「組織などで、ある人の下に属し、その指示・命令で行動する人」(『大辞泉』小学館)という意味だからです。
組織人として「上司の指示・命令で行動する」ことは必須ですが、ただ単に「指示・命令」に従順であることと、「指示・命令」の意図や背景までを理解したうえで行動することの間には、天地ほどの差があります。前者は受動的に動いているだけですが、後者は自分の頭で考えようとする主体性があるからです。そして、「参謀」として頼りになるのは、どんなことでも自分の頭で考えようとする人物なのです。
このような人物は、ときに扱いづらいものです。
「指示・命令」の意図や背景に納得したときには、おおいに力を発揮してくれますが、納得できないときには抵抗勢力になりかねないからです。
しかし、それくらいでいいのです。
むしろ、そのような人物から、「なぜ、そんな指示・命令を出すのか?」と問われ、「その指示・命令には、このような問題がある」と指摘されるからこそ、上司は、新たな視点を与えられて、思考を深めることができるのです。
もちろん、若い頃は、視野が狭く、独りよがりな思考に陥りがちかもしれません。的外れなことを主張してしまうこともあるでしょう。しかし、何事についても、「なぜ?」と自分の頭で真摯に考え続ける人は、徐々に視野を広げ、思考を深めていきます。そのような人物こそが、参謀へと成長していくのです。
あるいは、運悪く、従順な部下を取り巻きにしているような人物の下に配属されたら、自分の頭で考えようとする人は苦労するかもしれません。しかし、私にすれば、そのような上司は、「上司として不適格」なだけであり、取り巻き連中は“烏合の衆”にしか見えません。
そのような集団に順応するために、自分の頭で考えることをやめてはなりません。面従腹背を強いられるかもしれませんが、そんな経験も参謀としての足腰を鍛えてくれるはずです。「自分の頭で考える」ことは、ときにリスクになりますが、参謀にとって、従順であることは「美徳」ではないのです。
「自分の頭で考える」ことは、ときにリスクとなる
そういえば、私も、ブリヂストン入社早々に“洗礼”を受けたことがあります。
新入社員研修の一環で行われた工場見学での出来事です。工場に到着すると、敷地は広く、外からはいかにも立派な大工場に見えました。しかし、「すごいなぁ」と思いつつ中に入ると、「なんだこれは?」とあっけにとられました。工場床面積に対して製造機械の据え付けられている面積があまりに少ないのです。
案内してくれた担当者に、「工場の中で、機械が据え付けられている面積は全体のどれほどですか?」と質問をすると、「17%くらい」と教えてくれました。そして、残り83%の空間が何に使われてるのだろうと思って観察すると、ほとんどの場所に、次の工程に送られるのを待つゴムの山、つまり「中間製品」が積まれていたのです。
「なぜ、こんなに中間製品が積まれているのだろう? これを減らせば、製造機械を増やして、タイヤを増産できるはず。生産ラインが非効率なのでは?」
そう考えた私は、原材料を機械に投入してからタイヤが完成するまでに、どれくらいの時間がかかるのかが気になって、各工程の担当者にそれぞれ所要時間を聞いてみました。すると、すべてを足しても、1時間にもなりません。しかし、実際には、24時間以上もかかると言うのです。「おかしいな……。なぜ、こんなことをしてるんだろう?」。そんな疑問を抱えながら、工場見学を終えました。