(9)有名な占い師に決めてもらう

 理性やエビデンスを信奉するような、とくに若い人には信じられない話かもしれないが、お抱えの占い師を従えている経営者は意外と少なくない。甲骨文字の時代から為政者の多くが占い師に頼ってきたように、占い師という職業は脈々と生きながらえている。一般の人には聞こえない天の声や、宇宙レベルの波動などを感知し、答えを出す占い師というのがいたとしたら、頼りたい気持ちもわかる。

 以前、ある社長が、投資先の会社の社名について占ってもらったら「ドバーッと一世を風靡(ふうび)したあとに、どかんと落ちる」と言われたという。確かに、ドバーッと一世を風靡したのだが、しかし、どかんと落ちては困るということで、長かった社名を変えて、世間で言われている愛称と同じ形に短縮した。しかし、そのかいなく「どかんと落ちた」。名前の問題だったのか、別の問題だったのかは私にはわからない。

 もちろん可能性としては、占い師が質の高い「忖度マシーン」で、経営者が背中を押してほしそうな方の回答を選ぶ、ということもありうるだろう。その場合は次の(10)の2番目のやり方に近い。

(10)サイコロを振って、決める

 最後はサイコロを振って決める、である。運を偶然に任せるというのだ。具体的な方法としては、サイコロの奇数ならどちら、偶数ならどちらということで決めるのである。もう万策尽きた場合の方法ともいえる。

 サイコロを振って手で受け止め、中身は見ずにそのとき、こちらのほうが出てほしいな、と思った方を選ぶという方法もある。これは、賽(さい)を投げるその瞬間に現出した自分の直感に従うという方法である。つまり、潜在意識を強制的に顕在化させる方法でもあり、それなりに多用される。缶ジュースを買うのに2本まで絞ってどちらか決められないとき、その2本のボタンを同時に押すと、潜在的に自分が欲しいと思ったほうのジュースのボタンを速く押すので、本当に飲みたいジュースを選ぶことができる……という話もある。

未来に向けての意思決定には
計り知れない重責が伴う

 さて、ここまで読んだ方は、あくまでもお遊びの思考実験であり、重要な場面での実際の意思決定が、かくも不合理で、バカバカしい理路をたどり、かつ、かくも軽々しく行われるはずはなかろうと思っているかもしれない。意思決定のあり方については、さまざまな手法が開発され、意思決定の際に紛れ込んでしまいがちな人間特有のバイアスの研究も進んでいる。これらを駆使して科学的に意思決定はできるはずだと思う読者もいるだろう。

 しかしながら、現実はいまだに統計的に解釈できない不確実性に満ちており、意思決定のためのさまざまなモデルは、あくまでモデルであって、そのまま適用するには、現実社会の側にあまりにも変数が多すぎる。また人間自身の不合理性も認知行動科学などの最新の知見をもってしても、もちろん到底解明できるものではない。

 視界の利かない中、断絶した未来に向けての意思決定は、その重責を担う人をこの上なく苦しめるのである。実際に行われた意思決定に対しては、のちの検証をしっかりとする必要はあるが、一方で、占い師にも頼りたくなるようなその重責をしっかりと担おうとしている人たちへの尊敬の念というものを持つ必要があるのではないかと考えている。もちろん、自分が社員だとして、(6)や(7)のようにして社運を賭した決定がなされれば、業腹なのだが……。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)