そうした手はAIには理解できず、当然低い評価が出るでしょう。人間には、むしろわかっていないからこそ進めるという能力がありますよね。可能性は低くても、この先に大きな鉱脈があるかもしれないと信じて突き進めるかどうか。失敗から大発明が生まれることはたくさんあります。
そのような点で、人間の創造性は、AIとはまったく隔絶された領域でこそ、涵養(かんよう)されるものなのかもしれません。
――AIと隔絶した領域をつくるということは興味深いアイデアですが、それ以外に、人間の個性や創造性を育成するうえで、重要となるのはどういったことだとお考えでしょうか。
人間は勉強でもスポーツでも、優れた指導者やテキスト、環境などに囲まれて学ぶとともに、無駄なことや失敗もたくさん経験します。大きな回り道をしながら学ぶということですね。
まず、効率性の面でいえば、AIとの共存によって無駄を省き、学習の最適化をすることは可能なのではないでしょうか。いまの子どもたちには昔と違って、生まれてから育ってきた現在までのデータがあります。そのデータを集めてビッグデータとして活用すれば、一定の領域までは無駄を省いた効率のよい学習ができる可能性があると思います。
もう一つは、AIを個人向けにカスタマイズし、このテーマについてはこの子にこの課題を与え、この程度の負荷をかければ効果的に学べるといった形で、個人学習の効率化を図ることも可能だと思います。そうすればどんなジャンルにおいても、データの蓄積によるAIの進化で、個人能力のレベルを高め、基礎とその活用ができるようなところまでは効率よく育てることができると思います。
ただ、現状のAIは問題に対する答えだけが出てきて、その途中の発想のプロセスは教えてくれません。答えから遡ってプロセスを導くことができるかもしれませんが、まだ取り組みの途上ではないでしょうか。AIからだけでは、新たな局面に対応する力が身につかない可能性があります。やはり、周囲の優れた人間によるサポートが必要なのではないかと考えています。
――同じピアニストの演奏でも、感動できる時もあれば、そうでもない時もあります。場の雰囲気や個性といったものを、AIの判断に取り入れることは可能だと思われますか。