AIが選んだ手をずっと真似して将棋を指していったら、人間は何のために将棋を指すのかという根本的な問題にぶつかります。AIを使って、どれだけ人間の能力を伸ばしていくかが大切です。
現状では、まだ試行錯誤という状態であり、最適な使い方を見つけ出すのは私たちではなく、次の若い世代の人たちになるでしょう。
AIが避ける無駄のなかから
人間の創造性が育まれる
――将棋でも藤井聡太七段のように、若い頃からAIを研究に取り入れている若手が台頭してきました。前向きな影響ばかりが注目されますが、人材育成面でAI普及のデメリットはありえるのでしょうか。
藤井七段については、天才的な存在なので、おそらく将棋ソフトがなくても、いまのポジションに就いていたでしょう。ただ、子どもたち全体についていえば、失うものも出てくるのではないかとも思います。それはおそらく創造性です。人間的な創造性とは、現在では一般的な価値や評価が低いとされていることでも、そこに何らかの可能性を見出して分析や研究をし続けられることではないでしょうか。
AIにすべてを判断させて、その評価をもとに研究を進めたり、作戦を立てたりしても、そこで導き出されるものはその局面だけの最良の策であり、その後に悪い展開を招くことも十分に起こりえます。
それに、先ほどもお話しした通り、局面を限定すると、AIは過小な評価を下すことがよくあります。その評価に無条件に従っていると、その先にある可能性を早々に捨ててしまうことになります。もしかしたら、その20手先ではプラスに働くかもしれない。その可能性を信じて続けられるかどうかが、人間の創造性であり、個性にもなるのだと思います。研究者の方にお聞きしたところ、AIにランダムな要素を学習させても、「人間的」「独創的」な手は指せないそうです。
――AIを高度化するために大量のデータを読み込ませるとはいっても、それはすべて過去のデータです。そこから、画期的な一手が生み出される可能性は低いかもしれませんね。