合理的思考をベースに
感情や直感を乗せるべき

「本質」とまでは行かなくとも、表面的な事象だけを見て、「この人はこういう人に違いない」と判断してしまうことは、日常生活でよくある。

 たとえば、最近では公共の場でマスクをつけるのが、感染予防のエチケットとして当たり前のように思われている。それでも、割と人通りが多い通りなどでも、マスクをしていない人をたまに見かける。そういう人を見ると、私たちは「この人は、公共心のない人だ」とか「この人は他人への配慮が足りない自分勝手な人だ」などと判断しがちだ。

 しかし、その人は、たまたまマスクを忘れたか、切らしていたのかもしれない。とても緊急の用事があり、マスクをつける余裕がなかったのかもしれない。そういったことに考えが及ばずに、「マスクをつけていない」という事象だけで、個人の特性(意図と人格)を判断してしまう間違いを、社会心理学用語で「根本的な帰属の誤り」というそうだ。

 いわゆる「自粛警察」もこれに当てはまるだろう。「自粛しない=自分勝手」と決めつけて、自粛しない人を責め立て、個々に事情があることに頭が及ばない。

「真のスコットランド人の誤謬」でも、「根本的な帰属の誤り」にしても、そこに、ヘイトのようなネガティブな強い感情が乗せられることが少なくない。そして、感情が乗せられることで、拡散しやすくなる。本書によると、2017年に行われた『米国科学アカデミー紀要』の調査によって、政治的なコンテンツは道徳的・感情的表現を含んでいるほうが広く拡散されやすいことが確認されている。

 ただし「感情」や「直感」をまるっきり否定し、何事も理詰めで考え、判断や行動すべきなのか、というと、そういうことではないと思う。

 感情は、たとえネガティブなものであっても、日々の生活を多様に、豊かにするものだ。また、感情を否定してしまっては、芸術作品は生まれない。マーケティングで、消費者感情が重視されたりもする。

 直感に関しては、カリスマ的なビジネスリーダーが、直感にしたがって判断し成功した例などがよく聞かれる。だが、そうしたリーダーたちは、直感“だけ”で判断しているわけではない。ベースには、理性的、合理的な思考があり、それを超える部分を「直感」に頼るのではないだろうか。

 本書で主張されている「合理的思考」は、誰もがベースに持っておいたほうがいいのは間違いない。そうすれば、誤った発信や拡散をしてしまったり、デマや誤情報にまどわされたりせずに済む。

 ベースにしっかりとした合理的思考を持ち、その上で感情を乗せたり、直感に頼ったりするのがベストではないか。合理的思考と、感情や直感とのギャップを楽しむのもいい。

 本書は、常に正しい判断を求められるビジネスリーダーにはうってつけの本だ。ぜひ一読し、思考を鍛えてみてほしい。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

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