数字の不正を見抜くコツ

 ベンフォードの法則がどのように社会の役に立つのかを最後に紹介しておこう。Googleの黎明期に収益源となる広告モデルを設計し、「Googleを世界一にした経済学者」とも言われるハル・ヴァリアン氏(1947~)は、1972年に「ベンフォードの法則を応用すれば、粉飾決算を見抜くことができる」と提唱した。

 会社の帳簿などで金額を偽装しようとする人はこの法則を知らずに、先頭の数字について均等すぎる分布で数値を書いてしまったり、逆に偏りすぎる分布で書いてしまったりする。すると1から始まる数値の割合がベンフォードの法則から大きく外れることになり、偽のデータであることが発見できるのだ。

 実際、1990年代の初めにこんなことがあった。会計学校講師のマーク・ニグリニ氏が学生に対して「企業収支の各数値の最高桁の数字がベンフォードの法則に従う分布を示すかどうか確かめよ」という課題を出したところ、ある学生が、親戚の経営する金物屋の帳簿の数字がベンフォードの法則とはまったく違うものであることを発見し、これが帳簿の不正発覚に繋がってしまったらしい。

 現代では、会計監査の他、選挙における不正投票の検証にもベンフォードの法則は使われている。

(本原稿は『とてつもない数学』からの抜粋です)