新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、これまでさまざまなリスクを考慮しながらサプライチェーンを構築してきた企業にとっても、想定外の事態となったはずです。危機の種類によって、企業が気を付けるべきポイントは異なりますが、企業が今後も存続するためにはサプライチェーンの見直しは必須になります。そこで今回は、これからサプライチェーンをどういう方針で見直すべきか、プリンシプルBCP研究所の林田朋之所長が解説します。
コロナ禍で日本企業を追い詰めた
海外のサプライチェーンの機能不全
近年、日本における事業継続計画(BCP:Business Continuity Planning)活動の充実も相まって、大企業のレジリエンス力(災害ダメージに対する柔軟な対応能力)は、確実に高まってきています。またこの数年は、「企業の存続自体を危うくさせる」最重要リスク(巨大地震など)に対し、事業の縮退によって対応するのではなく、「ほとんどの事業を停止させない、あるいは停止を最小限にとどめる」といった形で個々の事業継続を求める企業が多くなってきました。この点については、大企業の影響を大きく受ける中堅中小企業にも同様の流れがあります。
例えば、大手製造業ではサプライチェーンを巻き込んだ「受注・製造・販売・物流」の業務フローを最適化・効率化する構造を作り上げて無駄を省き、利益を生み出すことが一般的になっています。ただ実際には、そうした効率化は災害リスクに脆弱というマイナス面も併せ持っていて、その課題を解決したい企業は、有事の経営視点によるオペレーションをBCPに期待しているわけです。
一方、今回のコロナ禍では、多くの業種・業態が全世界的な規模で一斉に業務を停止しました。いくつかの日本企業は、在庫が底をつけば、商品の製造・販売ができなくなるかもしれません。その主たる要因は「海外のサプライチェーンの機能不全」です。ほとんどの海外諸国では強制力のある都市のロックダウンにより、労働者は自宅待機、企業は原材料や部品の供給を受けられないために工場を稼働できず、製品を製造できない事態に陥っています。
この影響は、原材料を求める製造業ばかりでなく、サービスを提供するために、素材として「完成品」を利用している業種にも及んでいます。例えば、ITのクラウドサービス業者は、サーバーやルーターなどの通信機器、ケーブル類、これらを完成品として仕入れますが、その供給が滞れば、データセンターのコンピューティングサービスを新たな顧客に提供することが難しくなります。また故障時の保守部品が欠品し、メンテナンスができない事態になれば、事業縮小にもつながります。