年間100回以上、受講者数3万人を教えてきた企業研修や講演の中から、リーダーの悩みをピックアップ。内容によっては、「本当にこんなことが起きているの?」「ウチの会社ではこんなレベルの低いことは起きていないよ」と思うこともあるかもしれません。しかし、これらはすべて、実際に現場のリーダーが抱えている問題なのです。

自分の意識を変えるのでさえ難しいのですから、部下の意識を変えさせるのはもっと難しいもの。そこで、新刊どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解から、シーン別にNG行動・発言とOK行動・発言を対比させながらどのような言動で接したらいいかを紹介していきます。

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×最初にお客様の心配をする
○部下の心配を第一にする

リーダーの悩み:部下の心が離れていく。何がいけなかったのか?

 仕事で一番大切なのは「お客様」でしょうか。

 かつて、「お客様は神様」という言葉が流行りました。対して、令和の時代は変わってきました。もちろんお客様が大切なことは変わらず、「顧客満足度」は重要視されています。それとともに、労働人口の減少に伴い、従業員を大切にしようと「従業員満足度」も重視されるようになってきました。

 リーダーにとって部下が大切ということです。

…>一発で信用を失ったリーダーのひと言

 ある大手日用品メーカーの話です。特別価格で見積書を出したにもかかわらず、定価で請求書を送ってしまいました。

 先方の担当者はCさんに対して、「私の上司が『請求書の価格をいきなり間違えるなんて取引して大丈夫か』と怒っています。先日の取引も数量が間違っていたので……。すぐに請求書を再発行して持ってくるようにしてください」と電話をしてきました。

 今回のミスは2回目で、初めての取引のとき、お送りした商品の種類と数量に誤りがあったのです。

 大口顧客になる会社と取引できたのに、これは一大事です。リーダーAさんには電話で報告したものの、Aさんは既存の大口のお客様とアポイントが入っていてすぐに戻ることができないとのことで、Cさんは1人で先方の会社に謝罪に行きました。

 Cさんはカスタマーセンターでの経験が功を奏して、一人で乗り切りました。結果、何とか取引を続けることを承認してもらえたものの、非常に強い口調でお叱りを受けました。特に、先方の上司は年配の男性でかなり圧迫感があり、Cさんは大変辛い思いをしたそうです。

 Cさんが会社に帰ると、リーダーのAさんは帰社していました。そして、Cさんに開口一番、
「お客様、大丈夫だった?」(×)
と尋ねてきます。

 Cさんは「ええ、何とか」と答えます。経緯は聞いていたので、Aさんは「お客様が大丈夫ならよかった」とそれ以上は追及しませんでした。

 一見落着と思いきや、次の日からCさんがどことなくよそよそしい態度に変わったそうです。Cさんだけではありません。他のメンバーの中にもぎこちない雰囲気が出てきました。

…>リーダーは安全基地でなくてはならない

 Aさんの対応で何がいけなかったのでしょうか。

 Cさんがお客様のところから戻ってきたときの対応がよくありませんでした。もっといい対応をしておけば部下から信頼されたかもしれません。「共感」を示せばよかったのです。

 具体的には、
「大変だったね」(○)
「報告しづらかったろう」(○)

といったねぎらいです。

 クレームで強く叱られたり、辛い思いをしたりした場合、人は「安全基地」を探そうとします。「安全基地」とは、いざというとき頼ることができ、守ってもらえる居場所であり、心の支えとなる存在です。

 部下をねぎらって、リーダーが「安全基地」になってあげればいいのです。

 安全・安心な場に帰ってきたとき、リーダーの第一声がお客様を心配するものであると、「一生懸命やったのに守ってもらえない。私は大切にされていないんだ」と感じ、傷つくのです。

 特に、大変なトラブルに見舞われたときのリーダーの振る舞いを、部下はよく見ています。平常時にどんなに頼れるリーダーだとしても、非常時におろおろしたり、部下をないがしろにしたりすると、一発で信頼をなくします。

「顧客満足度」より「従業員満足度」を重視すべきです。従業員満足度を重視してスタッフを大切にすれば、そのスタッフは大切にされているんだから頑張ろうと、モチベーションが上がり、仕事の質も高まります。それが顧客満足度にもつながります。

 部下が窮地に陥るような大変な状況になったときは、いきなりお客様の心配をするのではなく、まずは部下の対応をねぎらうことを最初にするのが大切です。

【ポイント】
お客様の心配をする前に部下の心配をしましょう。それだけでも信頼感がアップする