「いながらにして世界の情報が自分の手元に入手できる時代が来ます。教育の問題にしても、ショッピングにしても、いま現在考えられているのとは全く違った社会が、あと10年で私はできると思ってるんです。そういう意味で、私は日本の経済はまだまだ発展していくと思います」との言葉は、まさに90年代後半からのインターネット革命を予見したともいえる。
一方で稲盛は、「日本人はますます豊かになってくるものですから、そのために、現在の米国、ヨーロッパがそうでありますように、なるべく働かなくても収入が余計あるといいますか、それを望むようになってきて、だんだんと日本人の活力が失われていく心配があります」とも語っている。
その懸念はずっと持ち続けていたようだ。この記事から4年後の89年11月4日号に掲載されたインタビュー(『「日本よ、もう一度ものづくりに目覚めよ!」稲盛和夫、バブル期真っただ中の警告』として再録)で、おかしな方向に進み始めた日本メーカーに警告を発している。バブル経済の中、多くの日本企業が本業で稼ぐ以上の利益を、財テクから得ている状況を憂え、「ものづくりを誇りにしてきた日本企業が“楽な生き方”に向かっている」と喝破しているのだ。
「ものづくりは忍耐と犠牲を強いられるから、繁栄した国は、もっと楽な生き方を求め、そうしたくそ真面目な作業は、ニューカントリーに任せればいいと考える。日本も20年遅れで同様の傾向をたどるだろう。しかし、それでいいのか。もう一度、ものづくりに目覚めよう、そう思っている」(89年11月4日号より)
実際、バブル崩壊以降、日本が誇るエレクトロニクス産業は輝きを失い始めた。通信と融合した新しい価値創造の局面では、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)など米国のIT企業群に、完膚なきまでにたたきのめされた。
歴史にifを持ち込んでも詮ないだけだが、日本企業がバブルに踊らず、通信とエレクトロニクスの融合が引き起こすイノベーションに“くそ真面目”に取り組んでいたら、果たして世界はどうなっていただろうか。(敬称略)
(ダイヤモンド編集部論説委員 深澤 献)
エレクトロニクスを中心に
イノベーションと社会革命が進む
――第二電電企画会社を決心されたのは、日本の成長に強い確信を持っておられるからだろうと思うんですが、決断した動機を教えてください。
文明史的に考えますと、いわゆる中東のメソポタミアの辺から人類の文明が勃興して、それが西へ、西へと回って、ヨーロッパ、イギリスへ渡り、今世紀に入って文明の波が米国へ押し寄せていって、恐らく21世紀は、たくさんの方が言っておられますけれども、環太平洋の時代ではないだろうか。米国の西海岸と日本から、ASEANを含めて環太平洋の時代が、世界の文明の一番のピークを迎えるんではないかと思っております。
それと、日本という国を見ますと、明治以後、鎖国政策を解いて西欧文明を取り入れ、近代化を図り、その間のいろんな制度、教育制度も含めて、それらがいま開花期を迎えたといいますかね。その結果、それぞれの分野が非常に強い。産業も非常に強くなった。これは恐らく来世紀、21世紀の半ばぐらいまでは日本が非常な繁栄を遂げる前提ではないかと思います。