年間100回以上、受講者数3万人を教えてきた企業研修や講演の中から、リーダーの悩みをピックアップ。内容によっては、「本当にこんなことが起きているの?」「ウチの会社ではこんなレベルの低いことは起きていないよ」と思うこともあるかもしれません。しかし、これらはすべて、実際に現場のリーダーが抱えている問題なのです。
自分の意識を変えるのでさえ難しいのですから、部下の意識を変えさせるのはもっと難しいもの。そこで、新刊『どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解』から、シーン別にNG行動・発言とOK行動・発言を対比させながらどのような言動で接したらいいかを紹介していきます。
リーダーの不正解:仕事を指示する
リーダーの正解:仕事の内容を相談する
新しい仕事をお願いするとき、「関係性が悪い」となかなか頼みづらいものです。関係が悪い部下には、どう仕事を振ればいいのでしょうか。
大手IT企業でシステム開発をしている入社7年目のリーダーAさんとAさんの部下Cさんは同期入社でした。実力は拮抗していましたが、Aさんがある大型案件をうまくまとめたことが評価されて昇格したため、上司と部下の関係になりました。
Cさんは仕切るのが好きなうえ、思ったことをズバズバ言う性格。相手を論破する傾向にあったので、入社当時からAさんはCさんのことが苦手でした。
Aさんは職人タイプで黙々と仕事を進めていましたが、リーダーになってからは周囲に気配りをするように心がけていました。
あるとき、Cさんに新規案件であるホテルのシステム作成のプロジェクトに参加してもらおうと思っていました。
Cさんは、ホテルをはじめとしたサービス業のシステム構築を多く経験していたからです。
すでにCさんは進行中の案件を何本か抱えていましたが、Aさんにはまだ余力があるように見えたようです。
そこでAさんは、
「ホテルのシステムを作成した経験が豊富なのでお願いします」(×)
と、「なぜお願いしたいのか」を添えて言いました。Cさんにお願いする理由を伝えて頼んだのです。
これはいい方法ですが、人間関係が悪い部下にはもう少し工夫が必要です。
人間関係が悪い場合は、「いや、そんな得意でもないですよ」と返されるか、「忙しくて無理ですよ」と言われて終わりです。
…>「相談」してから「頼む」が鉄則
では、どのような頼み方がいいのでしょうか。
「指示する」より「相談で意見を求める」と、頼まれた側は「頼られているのだな」と承認欲求が満たされます。
「この分野といったら、Cさん以上に詳しい人はいないと思います。相談に乗ってください」(○)
などと、相談するのです。相談することで、「あなたのことを信頼しているから聞いている」「認めているよ」というメッセージになります。
人を動かすのが上手なリーダーは、相談が上手です。すでに答えがわかっている案件でも、意図的に「どうするのがいいかな?」と部下に相談しています。
「指示」を「相談」に変えると、相談に答えていくうちに部下は自分ごとになります。
頃合いを見計らって「あなたの力を貸してもらえないか」と頼むのです。
すると、部下も引き受けてくれます。「相談されるくらいだから、自分を頼っているんだ、手伝ってもいいか」と思うのです。
このように、人間関係が良好でない部下に対しては、「最初は相談」「その後頼む」といった二段階の流れをとるようにするのです。
たいして時間はかかりません。一度目は「頼む」のではなく、「相談」に変えるだけです。人間関係が悪い部下も話を聞いて手伝ってくれます。
何度も相談していくうちに部下のリーダーに対する対応が変わってきます。忙しくても積極的に案件を引き受けてくれるようになるのです。
【ポイント】
「頼む」を「相談」へ変えるだけ。部下との関係は良好になる