近年、引越業者とのトラブルが増加している。引っ越しの際、引越業者は国土交通省が定めた「標準引越運送約款」を遵守しなければならないが、この約款に定めのない事項については、明確なルールを示していない。そのため、トラブルに遭遇した場合、当事者同士の話し合いで解決するしか方法がないのが現状だ。
都内で一人暮らしをしている田中里子さん(仮名)は、転職が決まったのを機に住み替えを決意。「男性に1人暮らしの部屋に入られるのはいや」と、「作業はすべて女性スタッフ、女性ならではのきめ細かい対応」をうたう引越業者と契約した。しかし引越当日、やって来たのは全員が男性。「約束が違う」と抗議しても「手が足りなくて」の一点張り。仕事が忙しかったので仕方なく引っ越しはしたが、後日、業者に事情をただしても誠実に対応してもらえず、田中さんは今、契約不履行を理由に訴訟も考えている。
このような引越業者とのトラブルが絶えない。国民生活センターは2008年2月、初めて引越サービスをめぐるトラブルの実態をまとめた。同センターのシステムに登録されている相談事例を分析したところ、2001年度は1841件だった相談件数が、2005年度には2507件にまで急増していた(右グラフ参照)。
調査に当たった同センター相談調査部の浦川有希主査は、「明確な分類はできなかったものの、相談件数の半分は荷物を運ぶという運送業本来の部分で、残りの半分が荷造りのすべてを任せたりする、引越業界でいう新サービス、付帯サービスにかかわるものと見られる」と推測している。