兄が40歳になったとき、ゆおさんと母親は、「2度目の成人式を穏やかな気持ちで迎えることができた」と、明るく前向きに考えた。

 ゆおさんは手記にこう綴る。

「実際、母が雪道を転倒し、右手を骨折してしまった年には、兄が母の右手代わりになって、いろいろ助けてくれた。非常に長い時間をかけて、ゆっくりではあるが、兄は確かに育ち直しができていると、家族には感じられる」

 さらに母親は、兄と一緒に家の雨戸を閉めたり、内壁を舗装したりすることを始めた。

 引きこもる人たちの多くは、親に申し訳ないと思う後ろめたさから、家の中では自分のできる範囲で大なり小なり、家族の役に立とうと家事などの大事な役割を担っているのも事実だ。

 ゆおさんは、そこからのステップアップを考案。母親からの依頼ではなく、家族以外の第三者から仕事をもらい、工賃を受け取る流れをつくりたいと考えた。そこで、先の支援者2人に協力してもらい、生活介護・就労移行支援事業所から仕事をもらう形をつくることにした。

 最初の仕事は、書類の誤植の修正だった。横2本線で削除し、訂正事項を記入する作業だ。兄は、自宅内で自分のペースで仕事に取り組むことができた。兄が家で仕上げた仕事を受け取って、その工賃や次の仕事を渡す役割はゆおさんが担った。

 2人が家庭訪問することになり、ゆおさんが兄に「工賃と次の仕事を持って来てくださる」という目的を事前に伝えておいたところ、スムーズに面会が実現。「ありがとうございます」というお礼を直接言うこともできた。

 ただ、そのままではゆおさんの負担が大きいため、母親と相談し、「妹は過労で倒れた」という話を伝えてもらった。すると、兄は自ら生活介護・就労支援移行支援事業所に出向くことになった。

 その後、在宅ワークの内容は、誤字修正から封筒づくり、レターセット制作を経て、クラフト制作に取り組むまでになり、その完成度も目を見張るほどの出来栄えだという。