人材育成にどう人事データを
活用していけばいいか

早稲田大学 政治経済学術院 教授
大湾秀雄
Hideo Owan

  日本型雇用システムが抱える「遅い昇進」は、経営人材育成における制約要因となっています。国際競争に勝ち抜くにはシステムの再構築が急務であり、大きなカギを握るのが人材育成です。そこで、人材育成にどう人事データを活用していけばいいかを考えてみましょう。

 人事データの活用領域は、大きく3つあります。一つは、パフォーマンス予測や離職分析など、個人にひもづけた予測による選抜・支援の最適化。もう一つは、職場の改善や人材育成、健康経営などにおけるデータを用いた改善領域の特定。最後に、人事施策の変更による効果測定です。ただし、個人にひもづけた予測は統計的な差別やプライバシー権の侵害などにつながりかねず、残る2つをより活用すべきだろうと思います。

 施策の効果を計測する際は、施策の参加者と不参加者を比較するのが常道。ただし、参加・不参加をランダムに決めることが前提です。実験であれば、より正確に成果を計測できます。特に制度変更を行う場合、小規模の実験を実施し、その結果を踏まえて全社的に導入するかどうかを判断できるため、コストのムダを省くことにもなります。

  加えて、私が特に注力しているのは、好業績者とその他の社員の比較分析です。分析の結果、認知能力や非認知能力などの「変えられない部分」に違いがある場合、採用時にどのような能力や行動特性を持った人材を選んでいるかを分析し、両者に整合性があるかどうかをチェックします。整合性がなければ、採用の基準が間違っている可能性があり、見直しが必要です。

  逆に「変えられる部分」で差が出ている場合、分析結果を能力開発に活用することができます。

 あるサービス企業のプロジェクトマネジャーの能力を分析した際、優秀なマネジャーには、「計画性がある」「顧客への情報提供が厚い」「部下とのコミュニケーションが濃密」といった行動特性が見られることがわかりました。他のプロジェクトマネジャーもこれらを実践すれば、全社的に利益の向上が期待できます。

 最近のピープルアナリティクスは、業務で得られたデータを重視する流れにあります。とはいえ、社員が本音で明かした情報にはやはり高い価値がある。偽りのない情報を得るには、データ活用の目的が社員の幸福や生産性の向上にあることを明確にし、社員の信頼を得ることが重要です。そのうえで、得られたデータを人材育成に活用していくことが大事でしょう。


  1. ●構成・まとめ|金田俢宏  ●撮影|阪巻正志

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