後者のIT環境・モバイルツールの展開ですが、緊急事態宣言下では実際にモバイルPCの台数が足りないといったハード面でのツールの問題が中心でした。こうした問題が解消されつつある今、より重要であるのは、コスト面や業務遂行面を両立するリモート環境の整備です。

 たとえば、私がお手伝いした企業のある部署では、オフィスでは、20インチ前後のPCモニターを1人2台使って仕事をしていました。テレワークのトライアルをする際に、部署の全メンバーの自宅にオフィスと同じ環境を整備しようとしましたが、コストが膨大にかかることがわかりました。

 そこで、トライアル期間に、いくつかの大きさのモニターを用意したり、タブレットでも業務運営可能か、1台でも大丈夫かといった実験を行ったりし、コスト面でも業務運営上も可能である方法を探りました。こうしたIT環境やモバイルツールの整備が、テレワークの推進を後押しするでしょう。

【テレワーク定着を阻む壁(5)】
社員を一人の大人として扱っていない

 5つ目は、「社員を一人の大人として扱わないという壁」です。緊急事態宣言下では、人事部門や管理職から、「部下が働き過ぎないか心配」「部下がさぼっていないか気になる」という声を多く聞きました。前者は部下を心配する良い企業、後者はそれとは異なるように見えますが、根っこはあまり変わりません。なぜなら、背景には部下が「心身の健康を保ちながら、自律的に業務遂行できる人だとは思えない」という管理職の気持ちがあるからです。

「人はさぼる生き物だ」というステレオタイプでの見立てか、「Aさんは任せて安心だけれど、Bさんは細かく見ていないと心配だ」と人によって違う見方をするのかは、管理職ごとに異なります。

 しかし、3つ目の壁でも少し触れましたが、「部下に業務の進め方を細かく指示して、毎日進捗状況を確認しよう」という管理職よりも、「必要な支援は行いつつ、できるだけ本人の自律的な業務遂行に任せよう」という管理職の方が、部下からすると「自分は信頼されている。頑張ろう」と思えるのではないでしょうか。

 ちなみに、部下を信じて任せてほしいと一口にいっても、業務の習熟度などからして、テレワークでの仕事を認めるには早過ぎる、という社員が一定数いる会社もあるでしょう。その場合は、テレワークを利用可能な社員を、自律的な業務遂行可能と判断される等級以上に絞って制度を開始し、会社としてテレワークに慣れてきたらその範囲を拡大するのも一考です。

 これからの時代、テレワークを部下の成長への良い機会と考え、自律的な業務遂行を適切な距離で見守り、寄り添うことが、管理職にはより求められるようになるでしょう。

 以上、テレワーク定着を阻む5つの壁を紹介しました。企業も社員も、テレワークを体験することでさまざまなメリットを感じました。それぞれの企業が、対面とリモートの良いバランスを探りながら、テレワークという働き方を武器にできることを願っています。

(リクルートマネジメントソリューションズ シニアコンサルタント 武藤久美子)