「現場主義」VS「管理主義」

 エピソードをひとつ紹介しましょう。

 私が、大学でインドシナ語を学んでいたことが評価されたのでしょう、入社2年目に、当時立ち上げ真っ只中にあったタイ・ブリヂストンの工場に配属されたときのことです。

 タイ工場に赴任してからしばらくの間、私は、総務・労務部に配属されました。直属の上司は、タイ人部長。この人物が非常にきつかった。

 前職は外資系企業の労務担当。英語はペラペラで、いつもデスクに座って指示を出しているいわゆるキャリアの専門家でした。入社2年目のペーペーで、労務に関する知識など皆無だった私には、まったく太刀打ちできません。それどころか、私の知識のなさや、拙い英語を、ずいぶんと「バカ」にされたものです。正直、良好な人間関係を築くのに苦心しました。

 それは、私だけではありませんでした。

 現場上がりの日本人工場長もタイ人部長とはあまりうまくいっていない感じでした。タイ人部長のプライドの高いキャラクターが性に合わなかったこともあるのでしょうが、それ以上に、工場長はタイ人部長の現場に対する姿勢に違和感を感じていたようです。

 というのは、タイ人部長はほとんど工場現場に顔を出そうとしなかったからです。

 工場長は毎日必ず、最低1回は工場の隅々まで汗びっしょりになりながら巡回していました。

 しかし、労務部長なら現場を見るのが当然であるはずですが、タイ人部長は、「だって、工場なんて暑いし……」と、クーラーのきいた事務所でデスクワークしかしませんでした。もともと「管理する人間が工場に入ってどうする」というのが彼の考えでしたから、現場上がりの工場長とは根本から考えが違う。そんな状況でしたから、自然、工場長は何か問題があると、私に相談をもちかけるようになっていったのです。