これまで、基幹デバイスや基幹技術を内製化するのがトヨタ自動車の方針だった。今も、電気自動車など電動化に不可欠なデバイス・技術の獲得には余念がない。その一方で、従来のクルマとは離れた新しい領域については、異業種・ベンチャーへの資本参加、競合との協業など新しい「組み方」も続出している。金に糸目を付けずに新領域でも投資を加速させることで、「トヨタ帝国」は存続できるのか。特集『トヨタ「一強」の葛藤』(全5回)の最終回では、技術の側面からトヨタの野望をひもとく。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
孤高のホンダにも接近
トヨタの際限なき“チームづくり”
「トヨタのエンジニアから、一緒にやらないかと言われている」(ホンダのエンジニア)。
昨年7月、ホンダは新しいビジネスコンセプト「ホンダeMaaS(イーマース)」をぶち上げた。EaaS(エネルギー・アズ・ア・サービス)とMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)を掛け合わせた造語であり、従来のエネルギー事業や自動車事業を “サービス業態”として捉える新しい概念だ。
二輪や四輪など電動モビリティによる移動サービスと、独自のエネルギーサービスをコネクティッド技術などで融合させる――。要するに、従来の延長線上にある移動サービスでも稼ぐし、これまでエネルギー事業者の商売範囲だったエネルギーサービスでも稼ぐというビジネスモデルである。
車がインターネットで常時接続されたコネクティッドカーの時代が到来すると、自動車メーカーのなりわいは様変わりする。従来は完成車の製造・販売を事業としてきたが、将来的にはモビリティに関わる「サービス」でもうけるビジネスモデルへ転換することになる。
ビジネスの一例を挙げれば、二輪や小型モビリティと持ち運び可能なバッテリーを組み合わせて、再生可能エネルギーを効率よく供給するシステムを構築する。すでに東南アジアでは実証実験がスタートしている。
大きな四輪の世界では、基幹デバイスである電池価格が高く、電気自動車(EV)市場が爆発するには至っていないが、小型の乗り物にEVは非常に適している。小回りが利く乗り物を得意とするホンダならではのコンセプトなのだ。
この「ホンダeMaaS」のビジネスに興味を示したトヨタ自動車のエンジニアが協業を持ちかけてきたのだと言う。
折しも今年1月、トヨタはコネクティッド・シティの実証実験プロジェクト「Woven City(ウーブン・シティ)」構想を立ち上げたばかりである。すでにSUBARU、マツダ、スズキとチームを組むトヨタが、業界では“孤高”の存在であるホンダにも接近している。
競争から協業へ――。自動車メーカーの事業領域が広がりを見せる中、ライバルとも手を組むトヨタの“チームづくり”が加速している。