ファブレスとファウンドリの台頭

 1980年代の中ごろまで、半導体メーカーはすべてIDM(垂直統合型デバイスメーカー、Integrated Device Manufacturer)であり、「設計・製造・販売」の垂直統合型の業務を自社内で行なっていました。インテル、NEC、富士通、日立、東芝など、すべて同じだったと言ってよいでしょう。

 しかし1980年代の後半からは、
ファブレス=製造ラインを持たず、設計だけを請け負う
ファウンドリ=設計は行なわず、受託製造だけを請け負う
という2つの新しいビジネスが起こり、お互い垂直分業によるシナジー効果を発揮しながら発展していきました。

 世界の半導体売り上げに占める、ファブレスとファウンドリの比率は、特に1995年以降はともに右肩上がりの急速な成長を示し、最近ではファブレスとファウンドリはそれぞれ、20%と10%を超えるまでに成長しています。

 その背景として、「パソコンの成長と普及」が垂直分業モデルを可能にしたこと、続いて携帯電話に代表されるモバイル電子機器の爆発的成長がこのビジネスモデルをさらに後押ししたことが挙げられます。

 ファブレスの場合、工場をもたないため、巨大な資金は不要です。応用分野ごとにソフトとハードの両面でノウハウを持った技術者さえいれば、標準的なEDAツールを用いて、付加価値の高いSOCの設計が可能です。つまり、人材さえ確保できれば、比較的参入しやすい業種とも言えるでしょう。

EDA:Electronic Design Automation の略。半導体や電子機器の設計を自動化するためのソフト、ハードあるいは手法に対する総称。
SOC:System On Chip の略。1個のICチップ上に1つのまとまったシステム機能を搭載した集積回路。あるいは、そのような集積回路を実現するための設計手法。

 ファウンドリの場合には、受託製造を主な仕事とするだけに、巨額の投資が必要です。ただ、工場をもたないファブレス企業からはもちろん、垂直統合型のIDM企業からも製造受託しますので、製造ラインを空けることなく有効活用できるメリットがあります。また最近、大手ファウンドリは汎用IPや周辺回路IPなどに関する自社IPライブラリーを構築し、その情報をファブレス企業に提供しています。これによって、ファブレス企業はコアデザインに注力できるだけでなく、設計期間の短縮も可能になるという、二重のメリットが出てきました。

IP:Intellectual Property(知的財産)の略で、ここでは設計資産を意味する。

 このようにファウンドリそのものも、単なる製造受託ビジネスではなく、開発段階からファブレス企業と連携することでSOCソリューション(SOCを用いて特定のシステム機能を実現するための最適化をめざした技術パッケージ)を提供するビジネスへと変貌してきているのが実情です。

 では、なぜ日本は凋落したのか、次回からは、その原因をいくつかの側面から迫ってみようと思います。


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