民主党の鳩山政権が9月16日発足し、農相には選対委員長の赤松広隆氏が就任した。赤松氏は、旧社会党グループのリーダー格で、ウルグアイラウンド交渉の最中の1993年には、党の方針に反して「コメ関税化」を肯定する発言をした人物である。果たして今回、農相として民主党がマニフェストで示した当初の方針のまま動くのか、それとも軌道修正を図っていくのか、興味をそそられる人事である。

 そもそも、筆者は、民主党がマニフェストに盛り込んだ農業に関する公約は、すべては実現できないと考えている。端的に言えば、農家にも消費者にも好い顔をしてしまった結果、整合性を失い、目標のどちらかを立たせると、どちらかが立たないという隘路にはまり込んでいる。よく言われているとおり、民主党の中に、行政経験の豊富な人たちが少ないということの証左であろう。

 では、抽象論はさておき、マニフェストをベースに、具体論で問題点を検証したい。

 周知のとおり、民主党が掲げる農業関連の公約の中で最も注目されているものは、農家への戸別所得補償政策だ。馴染みのない人に改めて説明すれば、これは農家に対する財政からの直接支払のことであり、具体的には、農家ごとに「生産目標数量」を定め、この目標を達成した農家に生産費と市場価格の差に相当する支払いを行うというものである。

  誤解を恐れずに言えば、この所得補償そのものは害悪ではない。欧州連合(EU)も公然と行っていることであるし、「価格から直接支払いへ」というのは世界の農政の流れだ。問題は、民主党が戸別所得補償の支払い条件や方法を間違えていることである。

 民主党の考え方では、コメの場合、「生産目標数量」とは、10トン作れる農家が自給率向上のために、15トン作ったら補償するというものではなく、10トン作れる農家が減反をして6トン作ると補償をするというものだ。つまり、生産調整に参加するか否かの判断を各農家に任せる減反選択制への移行であるとはいえ(現在の完全減反制も現実には有名無実化しているが)、補償というニンジンをぶら下げて、減反にとどめようとしている。