まずは、「成果と幸せは別のものだ」と知ること
──私もそうなのですが、つい「幸せになるためには成果を出さなくてはならないのでは?」と考えてしまいがちの人は多いと思います。そういったものにとらわれず、自分なりの幸せを見つけるには、どうしたら良いのでしょう。
武田 これまでに自分が幸せを感じた時間はどんなときだったのか、振り返ってみることだと思います。私、フリースクールに呼ばれて講演をしたことがあるんですけど、学校に行けない、あるいは、行かないお子さんたちのつらさって、休職した人たちのつらさと似ているなと感じます。楽しむだけじゃダメで、何かができる自分でなければならない。フリースクールの先生から「子どもが『人より大きな魚が釣れないなら、僕が釣ったって意味ない』となってしまう」というお話を伺った時に、衝撃を受けました。子どもまでもが成果中心の考えになってしまっているのか、と。
──ああ、ものすごく思い当たります……。
武田 その文脈での「意味」は成果の話であって、幸せがどこかに行っちゃってるんですよね。それは、子どものせいでは決してない。自己責任で、自力で生き残っていかなきゃいけないっていう日本社会の中で育って、親も学校も「なにかができるのがいいこと」という価値観のなかにいるから、子どももそう思ってしまうんだと思います。「愛されるためには何かができなきゃいけない」となってしまう。それで、できないことに直面したとき、動けなくなってしまう……。大人も子どもも一緒なんです。
それに対する危機感は、前からすごくありました。幸せってそういうことじゃないはずなのに、「幸せ」と「成果」が混同されている。ものごとを判断するモノサシが「成果」だけになると、つらくなります。幸せって、本当はそういうことじゃないですよね。ごはんがおいしいなと味わったり、たわいない会話でほっとしたり、お花がきれいだなとか……。「何かができる・できない」じゃなくて、自分の中でじんわり幸せな気持ちが湧いてきたら、それが幸せなのだと思います。
『「繊細さん」の幸せリスト』のなかでも、創作に悩んでいたKさんの例が出てきます。Kさんは、会社員のかたわら趣味で切り絵をしていましたが、他の人の上手な作品を見ると落ち込んでしまう、という悩みを持っていました。「必要とされるには優秀でなければ」という思いがあって、それが切り絵を楽しめないことにつながっていたんです。「成果と幸せは違うものだ」ってきちんと知っておくだけでも、生きやすくなるんじゃないかなと思います。
やりたいことを見つけたければ、ストレス源から距離を置く
──最初のブレイクスルーになるような、「自分に合う環境」や「やりたいこと」は、どのような行動をとると見つかると思いますか?
武田 まずは心理的にでもいいので、ストレス源から距離を置くことです。たとえば、がむしゃらに会社で働いて土日は寝るだけで精一杯という状態を、土日は動けるくらいに持っていく。無理だと思ったら仕事を断ったり、用事がなくても休みをとったりして、会社の中で頑張りすぎないことです。休職したり、仕事を辞めたあとすぐには転職せずゆっくりするケースもありますが、それもOKです。自分のための時間を持つことがとても大切なんです。
ちょっと好きなことができる、心身の余裕や時間をまずつくること。ふと思い付いたことをやってみること。絵を描いてみたりとか、お散歩してみたりとか。そうすると、「ああ、自分にとってこういうことが大事だったんだ」ってだんだん思い出してきて、仕事を探すときにも素の自分で転職活動できるようになってきますよ。
──まずは、あえてスペースを空けるところからなんですね。
武田 やっぱり、仕事や今のストレス源から心理的に距離を取らないと、その会社にいるときの価値観のまま次の仕事を探してしまうので、また同じようなことになるんですよ。「忙しい職場だったから、忙しいのはもう嫌だ!」と思って転職しても、「あれ? なんかまた忙しいぞ?」みたいになっちゃったり。じつは、心のどこかで、忙しい職場に魅力を感じてたりするんです。
──忙しいことに魅力を感じる!?
武田 そう、そこにはまっちゃうというか。「なにができるかどうかに関係なく、自分は生きていていいんだ」と思えないと、どうしても「成果を出すことで、あるいは人の役に立つことで居場所を確保する」という考えになります。すると、のんびりした仕事や楽しそうな職場が選んではいけないものに思えて、忙しいところに飛び込んでしまうんです。
しんどい状況から自分らしい生き方へシフトするまでって、たとえるなら、今いる惑星から別の惑星へ脱出するみたいな感じなんです。これまでの価値観は、引力のようなもの。自分の時間をとって根本から価値観を見直さないと、何回ももとの惑星へ引き戻されちゃう。幸せを感じるどころじゃないですよね、そういう状況になってしまうと。