サプライヤーからすれば、BOMに自社の部品が掲載されれば、その基板を使った製品が製造される時には、必ず自分たちの部品が購入されると約束される。ならば、方案公司と親しくしておけば、時には袖(そで)の下を渡したとしても、広告費として十分見返りのある費用となる。

 この方案公司の仕組みについて、深センのハードウェア産業に詳しいMITメディアラボのアンドリュー“バニー”ファンは著書『ハードウェアハッカー~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険』(高須正和訳、山形浩生監訳、技術評論社、2018年)で、「公開IPエコシステム」という概念で説明している。

 公開では、設計図が入手できれば、オリジナルをだれが作ったのかにかまわず、好き勝手に使える。それでも人々がアイデアを共有するのは、そういう設計図が広告の役割も果たすからだ。設計図には、特定のチップ名やその図を描いた会社の連絡先がはっきり書かれている。設計図を描いた人々は、設計図が出回ることにより、そこに書かれたパーツ類や部品の発注、または設計の改善やカスタマイズのために連絡がきて、自分の工場の商売になるのを期待している。別のケースでは、設計図そのものが取引されることがある。たとえば、こうした設計図の交換サイトでは、ダウンロードする前に自分の設計図をアップロードしなければならないこともある。

 

 要するに、公開IPエコシステムは、ハードウェア製造に特化した広告主導ビジネスのようなものだ。

 

(中略)[筆者註(ちゅう):西洋の特許と公開IPエコシステムの]どちらのシステムも完璧ではないが、公開方式のほうが技術の進歩のスピードにうまく適応できている。2年ごとにマイクロチップの性能が上がって安くなるような時代だと、20年の特許期間は永遠のようなものだ。製品を市場に出すのに10年もかけるなんてありえない。最も速い中国の工場では、食事のナプキンに書いたスケッチを数日でプロトタイピングし、数週間で量産できる。長い特許期間は医薬品のような市場には適しているかもしれないが、急速に変化する市場ではライセンス交渉や特許申請に数万ドルの弁護士費用や数ヶ月の期間を費やしているとチャンスを逃がすことになる。
[筆者註:「公開」は簡体字から常用漢字に改めた]
(『ハードウェアハッカー』Part2 違った考え:中国の知的財産について)

 つまるところ、特許とは天賦人権のような固有の権利ではなく、イノベーションが継続的に起きるように設計された人為的な制度にすぎない。もし、より有効なイノベーションの促進の手段があるならば、それにこだわる必要はないはずだ。

 もちろん、中国の企業や政府がそこまで考えて公開システムを作ったわけではない。むしろ実際は逆で、コピーが横行する中でいかにしてアイデアの持つ価値を現金化できるか、という工夫の中からこうした仕組みが生まれたというのが正確だろう。