経済的な事情により、家計のやりくりによってエアコンを設置することが困難なのは、生活保護世帯だけではない。地方には、「車か生活保護か」の二者択一を迫られて生活保護を断念している貧困世帯が珍しくない。

 また、「どうしても生活保護だけはイヤ」という低年金高齢者もいる。そのような人々を放置しておくかどうかは、自治体の姿勢による。放置しておくと、低所得層から生活保護世帯への憎悪を効率的に掻き立てることができるだろう。

今年はコロナが行政を圧迫
置き去りにされる低所得層

 2018年、東京都荒川区と福島県相馬市は、低所得によりエアコンなしで酷暑をしのがなくてはならない世帯の救済を図るため、エアコン設置費用の助成を独自に開始した。荒川区の熱中症による死者は、2018年は16人であったが、2019年は0人となった。その後、同等の助成制度が全国各地に広がっている。

 しかし今年は、コロナ禍が行政を圧迫している。福祉事務所も生活困窮者自立支援制度の相談窓口も社協の窓口も、過去には考えられなかったオーバーワーク状態となっている。申請や審査を必要とする制度の迅速な適用は難しい。

 もちろんコロナ禍は、生活保護世帯を含む低所得層の人々の生活も圧迫している。マスクや衛生用品など、購入する必要がなかった物品を購入しなくてはならなくなった上、生鮮食料品を中心に物価上昇も著しい。就労収入があったものの、コロナ禍で減少したり失われたりした人々も多い。

 もともとギリギリだった生活費のやりくりが厳しくなり、数多くの変化への対応を迫られる毎日は、エネルギーを削いでいく。やっとの思いで役所を訪れると、窓口にも余裕がなかったり、緊急性の薄そうな案件の対応が後回しにされたりする。2019年にエアコン設置費用を申請できなかった生活保護世帯にとって、2020年はさらに申請が困難になっているはずだ。

 現在のところ、筆者の直接知る生活保護世帯に、エアコンがないために熱中症で深刻な事態に陥った事例はない。試行錯誤と経験から身につけてきた、「酷暑の日に扇風機を使うと水分が奪われやすく危険」といった知恵を駆使し、なんとか生き延びている。しかし、最高気温が38℃なら通用する知恵が、40℃でも通用するとは限らない。皆、エアコンの必要性は感じているのだが、申請のハードルを乗り越えられないのだ。

 おそらく、どのような変化があっても生命と健康と生活を守れる仕組みと、その仕組みを実行できる公共が必要なのだろう。