フランスの天才

 数学は未知の問題と向き合う準備を怠らない。だから数学にはたくさんの公式が登場する。たとえば「2次方程式の解の公式」を使えば、未来永劫出合うすべての2次方程式を、たちどころに解くことができる。

「2次方程式の解の公式」のように、四則演算(足し算、引き算、掛け算、割り算)の他に平方根(aの平方根は、2乗するとaになる数)や立方根(aの立法根は、3乗するとaになる数)などのいわゆる「べき根」を取るという操作を何回か繰り返すことで解に行きつくことができる解法を「代数的解法」という。

 実は3次方程式についても4次方程式についても、代数的解法による「解の公式」が存在する。3次方程式の解の公式は「カルダノの公式」、4次方程式の解の公式は「フェラーリの公式」と呼ばれ、それぞれ16世紀にイタリアで発見された。

 公式を用意し、演繹的アプローチによって解決する分野を拡げるために、数学者たちは5次方程式についても代数的解法を発見しようと躍起になった。しかし誰もそれを見つけることはできなかった。

 18世紀の終わり頃になると、すべての5次方程式に通用するような代数的解法は存在しないことを証明しようとする者たちが現れ始める。そのうちの一人がノルウェーのニールス・アーベル(1802-1829)であった。

 1824年、アーベルは「一般5次方程式の代数的非可解性」についての論文を発表し、その中で初めていかなる5次方程式にも通用する解の公式は存在しないことを証明してみせた。

 その5年後の1829年、18歳だったフランスのエヴァリスト・ガロア(1811-1832)は「与えられた任意次数の代数方程式が代数的に解けるための条件を見つける」という課題に取り組んでいた。アーベルは一般の5次方程式には代数的な「解の公式」は存在しないことを示したが、5次方程式であっても特別なものは代数的に解くことができる。

 では代数的に解くことができる方程式とそうでない方程式の違いはなにか、その「判定条件」を明らかにしようというのだから、ガロアの課題は極めて意欲的なものと言えよう。そしてガロアはこれに成功する。

 ガロアの理論の核心は、集合という概念がなかった時代に「群」と呼ばれる数の集まりを導入し、方程式の持つ対称性(解の置換)に注目することで無数にある方程式を有限集合の数え上げに落とし込んだことにある…このあたりの理論は大学レベルの数学でも難しい部類に入るので、読み飛ばしていただいて構わないが、ガロアの斬新な発想は、数学史全体でも、ひときわ輝く「コペルニクス的転回」だったということはお伝えしておきたい。