別々に暮らすという選択肢
仕事にまい進、夫婦でご機嫌!

 夫婦2人の生活は、小さなケンカはありつつも順調だった。しかし、昨年、転機が訪れる。きっかけはシンゴさんの職場が都内から隣県へと変わったことだ。
 
「夫は職業柄、朝が早く夜も遅い。通勤時間が長くなると心身ともに負担がかかります。だから、基本は徒歩で通える距離に自宅を構えていました。隣県へと夫の異動が決まったなら、今までと同じように引っ越せばいいんですけど、私としては都内から離れたくなかった。とにかく思いっきり働きたかったんです」
 
 会社を設立したばかりのミキさんにとって、フットワークの軽さは大切だった。隣県であっても、都内と比べると時間のロスは発生する。そこでミキさんたちが選んだのは、別居という形。
 
「別居というとネガティブなイメージはありますが、私たちの場合はそんなことはないですね。夫はひとり暮らし経験がないということでちょっとウキウキしていましたし。新居用の新しい家具を買ったりとか」
 
 もともと、家計が完全に別だったのも好都合だった。一緒に暮らしていたときから独立した生活軸を持っていたことで、別居するときもスムーズに移行することができた。

 別々に暮らし、お互いに忙しくてギスギスすることもない。さらに、もうひとつ、ミキさんが「思いっきり仕事をする」ことに好都合な点があった。家事からの解放である。
 
「一緒に暮らしているときも、主婦の仕事をしっかりしていたかというと、そんなことはありません。夫もそれについて怒るわけでもないので、気にしなければいいという話かもしれないんですが、家事をやっていないことに私自身が常に引け目を感じていたんです」
 
 別居によって、そんなモヤモヤも解消された。夫婦2人でずっと暮らしていると忘れてしまいがちだが、ひとりで暮らすと、自分のためだけに家事をすればいい。

 ちょっと掃除をサボっても洗濯物がたまっても後ろめたくもならないし、引け目も感じない。これは、かなりストレスを軽減することができるのではないだろうか。
 
 ミキさんは、「ダメな妻、嫁失格と言われるかもしれませんが」と苦笑いをしたが、それぞれの優先順位によってやるべきことは異なってくる。同じように仕事をしているのに、妻側だけが「家事ができていないことへの後ろめたさ」を感じて当たり前の世の中になっているのは少しいびつなのかもしれない。
 
 現在も別居は継続している。週に1~2回は会っていたが、新型コロナの影響で緊急事態宣言が出た時期はそれもかなわなかったという。ただ、だからこそ、良かったこともあった。
 
「なかなか会えない時期が続いたあとに結婚記念日があったんですけど、夫がレストランを予約してくれて。今までそんなことは一度もなかったのでうれしかったですね」
 
 会える時間が少ないからこそ、お互いにご機嫌でいられる工夫をする。どうしたら相手を喜ばせることができるか、考えるようになる。それは別々に暮らしているからこその心情かもしれない。そして、いずれはまた一緒に暮らす日がやってくる。
 
「次に一緒に暮らすときには、別居していたときのメリットは生かせるようにしたいです」
 

夫は「最後のよりどころ」

 最後に、ミキさんにとって夫はどんな存在なのか聞いてみた。
 
「精神的に支えてくれる存在ですね。同志というか…一番信頼できる他人であり、私にとって最後のよりどころです」
 
 夫婦共に働いていたとしても、どのようにがんばりたいかは異なる。同じ方向を目指せることは少ない。それぞれに目標があるときは別々にいた方が、妥協しないで頑張ることができるのかもしれない。どちらかが我慢しなければならないこともないし、応援しなければならないということもない。

 夫婦の形に決まりはない。当事者たちが、一番納得できる形を選択できるのが最善である。