2020年度末の待機児童ゼロ目標
政府のシナリオに「3つの問題点」
安倍政権が掲げてきた2020年度末の待機児童ゼロ目標は、またも先送りとなる公算が大きい。
厚生労働省によれば、昨年度の保育所定員数は8万人増え、待機児童数は3年連続の減少となったが、なお全国で1万2000人が残っている。そもそも、なぜ2020年度末にゼロという目標が設定されたのか。その敗因が明確でなければ、政権が変わっても同じ失敗を繰り返すだけである。
女性の就業者が増えれば、保育需要も高まる。このため政府の「子育て安心プラン」では、2020年度に子育て期(25-44歳)の女性の就業率(労働力率)が80%の上限に達することから、それ以上の保育需要の増加はなく、これまでの保育所の供給増が追い付くことで待機児童がなくなるというものだ。しかし、このシナリオにはいくつもの問題点がある。
第一に、待機児童は主として大都市部の問題であり、子どもの数が減少している地域では保育所は過剰であり、むしろ定員割れ保育所の経営難の方が、より深刻な問題である。こうした地域間の需給のアンバランスがある中では、全国で画一的な保育制度ではなく、地域ごとの需給を反映した市場ベースの仕組みへと改革する必要がある。
第二に、保育需要の見通しを女性の平均的な就業率で考えることは誤っている。ここで女性の就業率が80%で上限というのは、女性の年齢別に見た就業率が子育て期に落ち込む「M字型カーブ」の底がほぼなくなる水準であり、2019年には79.9%とすでに達成されている。しかし、保育需要との関連で考えるべきものは、子育て期の女性平均ではなく、それよりも低い水準の既婚女性の就業率であるべきだ。
【参考】「保育を福祉からサービスに転換しないと待機児童問題は解決しない(2017.10)」
なぜなら女性のM字型カーブとは、男性の就業パターンと大差ない90%の高い就業率の未婚女性と、子育てで低い就業率の既婚女性との加重平均値であるからだ(図表参照)。ここで、もともと保育所を必要としていない未婚女性の女性全体に占める比率が持続的に高まっていることが、M字型の底を引き上げている1つの要因である。
肝心の子育て期の既婚女性の就業率は、最近高まっているとはいえ73%と、未婚女性平均と比べてなお17%ポイントもの差がある。今後、特に大都市部で保育所の空きができれば、新たな保育需要が増える余地は大きく、待機児童問題に終わりは見えていない。
第三に、潜在的な保育需要を考慮しない「待機児童の解消」という目標自体が、時代錯誤なことである。これは「子育ては家族の基本的な責任」という暗黙の前提で、例外的に「家族の所得維持のために、やむを得ず母親が働かざるを得ない児童の保護」という福祉の発想から生じている。しかし今後、男女に関わりなく働くことが当たり前となる日本社会では、保育は福祉ではなく、必要不可欠な社会的サービスと考えるべきだ。