安倍晋三総理は2020年度末までに保育所に入れない待機児童の解消を目指す「子育て安心プラン」を打ち出した。しかし、現行の保育制度のままで、単に財源をつぎ込めば良いという戦略は妥当ではない。旧態依然の児童福祉制度を「健全な保育サービス市場」に改革し、待機児童問題に終止符を打つとともに、付加価値の高い保育サービスを成長産業として発展させる。これが本来のアベノミクスの成長戦略といえる。(昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏)
「子育て安心プラン」への疑問
待機児童はなぜ解消しないのか
待機児童とは待ち行列の一種であり、それが長期にわたって解消しないのは旧社会主義国のように、需要に見合った供給を促す市場の仕組みが欠けているためである。現行の保育は、政府が需要を予測し、それに見合った保育所を整備する「政府管理市場」となっている。しかし、政府の需要見通しは常に楽観的で、保育所の供給が追いつかない状況が続いている。
政府の子育て安心プランでは、今後5年間で保育所の定員数を32万人分増やし、全国の待機児童を解消させるための予算を確保するとしている。これは2016年の2.4万人の待機児童だけでなく、子育て期(25~44歳)の女性の就業率が、現在の73%からM字型カーブがなくなる80%にまで高まることで生じる、新たな保育需要の増加にも対応したものとされる。しかし、この試算の前提には以下のような問題点がある。
第1に、最近、女性のM字型就労パターンの底の部分が急速に高まっているものの、それは「未婚化」で、子どものいない単身女性の比率が高まっていることによる面も大きい。他方で、保育需要と密接に関連する子育て期の既婚女性の労働力率は66%に過ぎず、単身女性の90%と比べて大きな差がある。未婚者も含めた平均的な女性の就業率80%で保育需要が上限に達するという、政府の楽観的な見通しの根拠はまったくない(次ページ図参照)。