これからの教育は
「ハイブリッド型」になる

星:年齢で分ける以外にも、「体験と知識」という分け方もできそうです。

英語でも数学でも、特定の知識やスキルはオンラインでも身につけやすい。

ですが、さすがに、体を動かしたり、どこかに行ったり、多くの人々と一つの場所を共有したり、といったリアル体験ができるようにはなっていません。

学習の分散化の中で、学校の中だけで生徒の学習が完結しない時代に向かうなか、知識やスキルをつけるような学習はオンライン教育への移行が拡大していくことでしょう。

そうした動きの中で、これからの学校教育は、「体験ベース」に変わっていかなくてはなりません。

アメリカも日本も、どんどんコミュニティが形骸化してきていて、人間関係が希薄になっています。学校が知識やスキルを身につける場所から「みんなが集まって体験する場所」に変わっていけば、学校をハブにしてコミュニティを再活性化するチャンスが出てくるのではないかと密かに期待しています。

出口:数学や英語など、ベーシックな部分はオンラインを活用する。一方、発想力や総合性が必要なものに関してはAIより人間のほうが処理能力が高いので、先生がオンラインで教える。

ガソリンと電気のハイブリッド車が生まれたように、これからの教育は「オンラインとオフライン」「体験と知識」「ベーシックと総合性」のハイブリッド型になっていくのかもしれませんね。

星:はい、同感です。オンライン以外の教育テクノロジーでも同様なことが言えるかもしれないと思います。

たとえば、現在の教育現場で様々な形でAIが導入さつつあります。子ども一人ひとりに適応化させた教材やカリキュラムなどを選択する「パーソナライズド学習」のツールなど、教育テクノロジーの発展にAIが応用されています。

当然、教師が学習をそれぞれの子どもに合わせていくには、人間としての限界があります。20人や30人でできることも、100人や200人になってしまうと生身の人間には難しい。また、それぞれの教師に特有のバイアスもあるわけです。

しかし、膨大なデータを元にAIに適切な次の学習教材を選択させる個人適応化が、確かに効果的な一方、大多数の子どもたちに効果的であるやり方を選択してしまいがちで、平均的な学習の効率化に終始してしまうという問題が指摘されてきました。

他の似たような生徒に効果的だったものでも、今、この目の前にいる生徒のやる気やニーズに合っているかどうかを、AIが判断できるかどうかには大きな疑問が残ります。

他の子どもたちから得られたこれまでのデータの枠を超えた考え方や方法をAIは決断しないからです。

実際、出口先生がおっしゃるように、発想力や総合性が必要なものに関しては、AIはまだ人間のレベルに達していないのが実情です。

オンライン教育や、その他の教育テクノロジーを導入するときには、機械頼みにせず、人と人とをうまくつなげて、AIと人のハイブリッドな学習システムをつくり上げていくべきだと私も思います。

オンライン教育や教育テクノロジーは、ツールでしかありません。それらを使用するだけで、何かの問題を解決できるわけではないのです。

問題の解決法はそうしたツールを使って、私たち自身が頭を捻って考えなければいけません。

現代社会は、新しいツールを手に入れた中、今一度、教育の形を吟味し直す必要に直面していると思います。

(第4回に続く)