人は無意識に「サバンナ」を求めている

誰もが「この絵」を本能的に好きになってしまう訳イングリッド・フェテル・リー
ニューヨークの名門芸術大学プラット・インスティテュートでインダストリアル・デザインの修士号を取得。世界的イノベーションファームIDEOのニューヨークオフィスのデザインディレクターを務め、現在はフェロー。8年を投じた研究により「喜び」を生む法則を明らかにした『Joyful 感性を磨く本』は世界20ヵ国で刊行が決まるベストセラーとなった。
Photo:Olivia Rae James

 東アフリカの大部分はサバンナに覆われている。サバンナとは、なだらかな起伏のある草原とまばらな樹木で構成される生態系をいう。サバンナでどれだけの人類進化が起こったかについては、古生物学者の間で議論があるが、初期の人間にとってサバンナが重要な生息環境だったことに疑問の余地はほとんどない。

 サバンナは祖先の狩猟採集民にとって明らかな利点があった。食料が主に樹冠に集中している森林に比べ、食料源が地面に近く、地球上のほかのどの生息地よりも、面積当たりのタンパク質量が多いのだ。

 また構造的にも魅力があった。開けた草原となだらかな丘のおかげで、捕食者も被食者も遠くを見渡すことができ、まばらな樹木や低木のおかげで、日光を避け、危険からすばやく逃げられる場所がある。

 イギリスの地理学者ジェイ・アップルトンは、サバンナがこうした魅力的な特質を兼ね備えていることに最初に気づき、「見晴らしと隠れ場」という用語で、広い視界(見晴らし)と簡単に見つけられる避難所(隠れ場)の両方を提供する風景を説明した。私たちはこのような環境に、安全と自由の理想的なバランスを見出すのだ。

 こうした特性への嗜好が、やがてDNAに刻み込まれ、私たちがどこへ行っても無意識に求め、再現しようとする、心の中のエデンの園になったと考える進化理論家もいる。

 この仮説を裏づけるものとして、人は文化にかかわらず、サバンナのような風景の特徴(視界がさえぎられない、地平線を視認できる、移動と視界を妨げる下層の植生がない、など)に親しみを覚えるという研究がある。

 生物学者のゴードン・オリアンズと環境心理学者ジュディス・ヘーアヴァーゲンの研究も、豊かなサバンナに繁茂するアカシアに似た──地表近くで幹が分かれ、樹冠が傘のように広がる──樹木を、あらゆる文化の人々が好むことを明らかにしている。自生の木をこのようなかたちに剪定する文化さえある。