窓外の風景は「回復効果」をもたらす

「見晴らしと隠れ場」理論は、人間の自然観を説明するために生まれた考え方だが、建造環境にも当てはまる。美しい風景を見渡す大きな窓があれば、靴箱のような狭苦しいアパートが城のように感じられるし、ほとんどの人は見晴らしのいい家やホテルの一室にならお金を奮発するだろう。

 これはとくに水辺の風景についていえる。泳ぐつもりも船出するつもりもないのに、そうした風景をほとんどの人が切望する。また中庭やバルコニーにも、空間を開放的にし、内と外の境界をぼかす効果がある。

 こうした風景には、ただの装飾以上の意味がある。1980年代の有名な研究で、胆嚢手術を受けた患者を調べたところ、病室に外の木々を見晴らせる窓がある患者の方が、レンガの壁しか見えない窓がある患者よりも、必要とする鎮痛剤の量が少なかった。

 また教師は教室の窓が生徒の気を散らすことを心配するかもしれないが、自然の風景にはむしろ生徒の集中を高め、ストレスを軽減する効果がある。自然環境を見ることで、画面や仕事の資料を凝視する合間に目を休め、目の焦点を変えることもできる。

 そうした風景は、疲労を和らげ集中力を取り戻す、いわゆる「微小な回復効果」を精神におよぼす。

 当然のように、窓の近くにすわる従業員はそうでない従業員に比べて全体的な健康状態がよく、仕事への満足度も高いことがわかっている。

 アップルやキックスターター、アマゾンなどの企業が、新しいワークスペースのデザインに緑豊かな風景を取り入れているのは、おそらくこの効果を狙っているのだろう。

 窓が上級管理職のためだけの特典になっているオフィスが多いなか、これらの企業はすべての社員に広々とした眺望を与えることの大切さを認識しているのだ。

 窓の外に開放的な風景がなくても、空間のインテリアに開放感を取り入れることで、「見晴らし」と「隠れ場」をつくり出すことができる。

 家なら非構造壁(訳注:建物の支えにはなっていない壁)を取り払えば、視界を広げ、広々とした感覚を得ることができる。それが無理なら、室内の家具の大きさを抑えることで開放性を高められる。かさばるソファや大きなたんすを小さなものに取り替えたり、不要なものを撤去する。家具を小さくすることで、いわゆる「ネガティブスペース」を生み出すことができる。これはデザイナーが使う用語で、もので埋まっていない空間を指す。

(本稿は、イングリッド・フェテル・リー著『Joyful 感性を磨く本』からの抜粋です)