民主党政権が新たなエネルギー政策で「原発ゼロ」を打ち出す方針が明らかになった。本稿執筆の12日時点では、関係閣僚がまだ最終調整を進めているが、骨格は固まった。福島第1原子力発電所事故を経てエネルギー政策の抜本的変更は国民の総意だが、議論の経緯には拙速感も目立つ。
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9月12日午前11時、成田空港発米ワシントンDC行きの全日本空輸便にスーツ姿の男数人がせわしなく乗り込んでいった。
米国政府へ向かったのは長島昭久首相補佐官と大串博志内閣府大臣政務官。米国が日本の原子力政策見直しに関心を示したことに対し、説明するためだった。
「この出張が確定したのは実はギリギリ直前のこと」
内閣府関係者の1人は打ち明ける。10日はもともと、政府による新エネルギー・環境戦略を決める会議が開催される予定だった。しかし、前日までに一番の焦点である「原発ゼロ」の時期などをめぐり調整が難航し、週末まで見送ることが決まったのだ。
派遣の経緯に限らず、政府の決定プロセスはドタバタ感だけが目立つ。背景を知るために、これまでのエネルギー戦略決定のプロセスから振り返りたい。
福島第1原発事故後、政府は新エネルギー政策策定に着手。2030年の電源構成における原発の比率については経済産業省の有識者の審議会で選択肢を絞り、それを受け国家戦略室が「0%」「15%」「20~25%」の三つを提示した。
今年7月には「国民的議論」が必要だとして、各地で意見聴取会を開催したほか、パブリックコメントを募集。結果、原発ゼロへの要望で溢れ返り、8万件以上が寄せられたパブリックコメントも大半が「ゼロ」を希望した。
ここで、政府にとっては一つの誤算が生じた。政府筋は当初、「多数派は15%を求めるだろう」(民主党幹部)と高をくくる向きが大半だった。しかし、8月以降、世論調査などでも「0%」を求める層が目に見えて拡大。「まさか震災直後よりも1年後の今に原発への拒否感が高まるとは想像していなかった」と政府関係者の1人は見通しの甘さを振り返る。