大企業が「なんちゃって病」に陥る
3つの理由とは?

 このように大企業が「なんちゃって病」に陥ってしまうのには、いくつかの理由が考えられる。

 第一に、会社自身の将来に向けた変革イメージがまだクリアになっていないこと、およびどのように変革していけばよいかのシナリオが描けていないことがある。

 例えば、DXの生み出す社会変革への対応。データとその分析によって、ハードウエアが主要なプロダクツからパーツの地位に落とされる状況にある。その新しい状況に向けて、現状のビジネスを守りながら、どのように変異していけばよいかのイメージがまださっぱりつかめていない。そんな状況にあって、将来の自分たちの姿を明確に規定して、そこに全てをかけるのは危険が大きすぎるということである。経営者にとって、成功イメージがまだ希薄ななか、方向を決めて大きな変化を推進するのは大変高いハードルなのだ。

 第二に、資本を投下するにも、それだけのお金の余裕がないという理由である。今年度の主要上場企業の経常利益は2割ほど減るという予測も出ている。お金がないときには、守りの体制を取らざるを得ない。過去の大型の景気後退期であれば、新しい取り組みはすべてストップしたものである。

 今回、このような状況下にあっても、新しい取り組みをやめようとしていないのは、むしろ、「何かしら変革しなくては将来がない」という経営陣の危機感の表れともいえる。しかしながら、成功のための必要な投下資金が確保できなければ、成功するものも成功しない。

 第三に、これならいける!という成功事例が身近にないことが挙げられる。日本の会社の多くはコンセンサス社会である。意思決定を行う会議において、3分の1超の人がそこで語られる将来のイメージにリアリティーを感じ、これはいけそうと思わなくては、GOということにはならない。

 役員がビジョナリーで卓越した洞察力をもっていればよいが、そうとは限らない。実際には半分以上が賛成し、他の参加者も「賛成しないが反対もしない」くらいでなければ、新しい方向に舵は切れない。参加者の多くが過去の成功の呪縛から解けていない組織においては、ビジョンや戦略を語るだけではその案は買われない。事例があれば、まだわかりやすいが、シリコンバレーでは……エストニアでは……といった海外の事例だと、自分たちとは異なる世界の出来事と感じる人に話をつぶされてしまう。ゆえに成功を予感させる身近な成功事例が必要であるが、それはまだあまりない。