大企業における新たなチャレンジ
組織では“損”、個人は“得”?

 とはいえ、「なんちゃって」かもしれないが、何かを試してみたいと経営陣は思っているのである。そして、少しはお金も人も出してくれるのだ。大変化である。ぜひ、このチャンスを生かしたい。

 このような状況で、全社にインパクトを与えるようなビジネスを生み出したければ、プロジェクトそのものを達成可能なものに絞り込む必要がある。その条件は、プロジェクトが下記のうちのいくつかを満たしていることだ。

1. 小さな事例ではあるが、そこで使っているビジネスモデルや技術が汎用的に全社に波及効果を及ぼすことが可能であるプロジェクト。たとえば、初期のトランジスタ(半導体)の発明などは、これに当たるだろう。

2. その成功が、自社のほかの人でもまねのできるような一定レベル以下の難易度であるプロジェクト。たとえば、空いている車と乗りたい人をネットで結ぶウーバーのようなビジネスモデルは、アイデアは欲しいサービスとそれを提供できる人を結ぶというごく単純なもので、Airbnbなどこのアイデアを応用したビジネスが広がった。

3. 小さな投資なので小さな成功しか納められていないが、大きな投資をすれば大きなリターンが得られる可能性があるプロジェクト。「出島」でやっていたビジネスを本体に持って帰って事業部として大きくして始動するといったことが想定できるだろう。

 3つとも難しい基準だ。しかし、大企業における新規の試みで、社内の多方面から評価されるのは、上記のようなプロジェクトだけである。

 加えて、大企業の中で新しい挑戦をする人の評価の観点で見ると、明らかに損な状況が続いている。既存事業で売り上げを100億円から120億円にのばした人と、ゼロから2億円のビジネスを作った人の評価であれば、前者は確実に数字という絶対的な指標で測れるので誰からも高く評価される。一方で、後者は状況や評価者によって高い評価を得ることもあるが、基本的には前者と同じ基準でしか評価されない場合が多く、点が辛くなるのもしかたがない。

 しかし、それでも会社の枠を取っ払った個人の市場価値という視点で見てみれば、最先端といえるような新規の取り組みに挑戦できることは、大きなアドバンテージだといえるだろう。それらの取り組みが大きな成果を生まずとも、転職市場においてはそれなりの評価を得られるはずだ。

 企業にとっては「なんちゃって」レベルの域を出ないかもしれないが、難しい課題に取り組む人がどんどん出てくれば、当人の市場価値も上がるし、それらの突然変異の中から社会を変える大きな種が生まれるかもしれない。そこには大いに期待を寄せている。そういう意味では、大企業の“なんちゃって病”も考えようによっては悪くないと思えるのである。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)