経営学者に哲学が必要な理由
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。 著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)がある。
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入山:『哲学と宗教全史』は、出口さんが学生時代に読んだ、マルクス、ヘーゲル、カントといった哲学者の思想をまとめたものですよね。巻末の参考文献の量も膨大で、教養書をほとんど読まない僕にとって、あれだけの本を学生時代に読み終えていたことに驚きました。
出口:当時は学生運動まっさかりで、大学はバリケードで封鎖されていました。授業がなかったので、僕は下宿でひたすら本を読んでいました。マルクス、レーニン、トロツキーから入り、ヘーゲル、カントからアリストテレスまで。
納得するまで読み込んだら、友人と議論をする。論破されたら、また下宿に戻って本を読む。お腹が空いたら、自転車で5分の大学の生協食堂でカレーライスを食べる。そんな毎日でしたね。
その頃に、「世界はだいたいこのようになっているんだな」という見取り図ができたと思います。
入山:僕が最初に哲学に触れたのは、じつは経営学を通してでした。
僕はもともと経済学部の出身ですが、「経営学者になろう」と思ってアメリカに渡り、ピッツバーグ大学の博士課程に入りました。
博士課程の最初の授業で、指導教官から学んだのが、エピステモロジー(科学哲学)だったのです。
経営学は社会科学の一つなので、突き詰めていくと、経営学者は「自分の哲学的な立ち位置」を把握しておく必要があったわけです。
ただでさえ英語が苦手なのに、超難解な英語を読み解かなければいけなくて、毎日、泣きそうになっていました(笑)。1ページ読み終えるのに、半日かかったので。
経営学の世界でも、学者の立ち位置はそれぞれ違います。立ち位置が違えば、当然、議論がかみ合わないこともある。けれどアメリカでは、意見が対立しても根本的な揉めごとにはなりません。
出口:互いの立ち位置を理解していれば、「なんでケンカするのか、なんで意見が違うのか」がわりと簡単にわかりますよね。要するに、それぞれの立脚点が違うということです。
入山:はい。立ち位置がわかっていれば、感情的に相手を非難することはないので、議論の質も変わってきます。論争はするけれど、「なるほど、君の立場だとそう考えるのか」と相手の意見を尊重できるわけです。