農業・漁業の担い手不足や高齢化
解決のカギは「エンタメ化」にある

高橋 ポケマルに登録している生産者の中に、何人か元サラリーマンがいるんですけど、彼らが「これまでは組織の歯車としてシステムの一部しか動かせなかった。でも今は、全部動かせる」とうれしそうに言うんです。作って、加工して、販売するところまで全部です。

 ネルソン・マンデラ(アパルトヘイト撤廃に尽力したノーベル平和賞受賞者)が「私がわが魂の指揮官なのだ」という箴言を残していますが、自分の人生を自分で動かし、自分を指揮するって幸せだなと思うんです。田端さんが言ってくれた「生産者が販売者であっていい」という、まさに値段をつけて売るところまでを農家や漁師ができたら、彼らはもう指揮官なんですよ。

――クリエイティブですよね。でも、農業・漁業を知らない人たちは、ともするとクリエイティブといえばPCを使ってデザインしている、みたいなことを想像しがちです。

高橋 それって根深いなと思っています。世間には、「自然に近い暮らしをしている人たちは遅れている」みたいな感覚が確かにある。この壁は簡単には壊せないです。だからこそ「発信」を通して、農家・漁師の「楽しい!」を伝えたいんです。農業・漁業は担い手が不足し、高齢化していて大変ですけど、それを「大変だ」って伝えるだけじゃダメで、ある意味でエンタメ化して伝えなきゃいけない。「楽しそう」というところに人は集まるから。

田端 農作物にしろ何にしろ、安定供給されるとクリエイティブさって見えにくくなるんです。たとえば堀江さん(=堀江貴文さん)がプロデュースされてる「WAGYUMAFIA」って、時々チャンピオン牛を落札して仕入れて絞めて、後日、会員で食べるんです。その牛は安定供給されないものだから、逆に価値が出る。しかも会員は自分たちが絞めたものとして食べるから、ある意味で牛の命に対する感覚だって変わってくる。神聖さというと大げさですけど、ありがたみというか。そういうことってハンバーガーの肉では起こらないし、その一連の動きってやっぱり楽しいんですよね。

――とはいえ、生産者は「発信する=特別なこと」と思ったりしませんか?

田端 ITから遠いと思っている人は多いです。だからこそ、いま全国に向けてエンパワーしています。発信は誰でもできる。皆さん「いやあ、発信っていっても何を書いたらいいかわからないし」って言いますけど、全然そうじゃない。

 そこを戦略顧問としてレクチャーしていますが、とりあえずやってみたらいいと思う。皆フォロワー1桁から始めて、炎上することもまずないし、失敗したって大したことは起きないんですから、どんどんトライ&エラーしてほしい。発信自体が価値をもつし、現実に影響を与えるのは確かですから。

――元々、高橋さんの活動も「東北食べる通信」という発信から始まっていますね。

高橋 「東北食べる通信」を始めるにあたり、産地の振興ももちろん考えましたが、同メディアは、東日本大震災の風化に危機意識を抱いて作った面もあるんです。東北の生産者と都会の消費者がつながれば風化を防げるんじゃないかと。実際、ボランティアで東北に来た人が東北の生産者に会って、その仕事の過酷さに驚いたりしていたんです。で、食べ物の価値を再発見していた。彼らは、東北の生産地と都市が「繋がっているものなんだ」と体でわかったんです。

 でも、来年、震災から10年ですけど、多くの人が忘れてしまっていると思う。震災当時、高齢化とかさまざまな面で“課題先進地域”といわれた東北を「世界の先進モデルに」なんて喧伝されましたが、復興についてもやがて言われなくなり、忘れられていった。僕は生産者が自らの価値を発信することで共感してくれる消費者とつながり、改めて共に生きる社会の素晴らしさを伝えていきたいと思っています。田端さんと一緒に、ポケマルなどを通じてそこに貢献できたらと思っています。