2020年のノーベル経済学賞は米スタンフォード大学のロバート・ウィルソン教授とポール・ミルグロム教授に授与された。ゲーム理論研究のフロントランナーである小島武仁・東京大学教授(前スタンフォード大学教授)は、元同僚として2人をよく知る。特集『最強の武器「経済学」』(全13回)の#1では、その小島教授に受賞対象となったゲーム理論のすごさや、2人が成し遂げた偉業の中身などを解説してもらった。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
参加者10人中3人がノーベル賞受賞者という
“ささやかなお祝い会”で語られたジョーク
――最近まで研究仲間だった米スタンフォード大学の2人がノーベル経済学賞を受賞しました。
8年前、私が教えを受けてきたアル(アルビン・ロス・スタンフォード大学教授)が受賞したときは、お祝い会や記者会見などを盛大に行いました。今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でそうしたことができないと思っていたのですが、彼と妻のエミリーさんが企画する形で受賞日(10月12日)の夕方、アルの家の庭でお互いに一定の距離を取りながら、こじんまりとしたお祝い会が開かれました。
米国の大学では、先生や学生がキャンパスのすぐ近くに住む傾向にあるので、研究仲間は近所付き合いも多くなります。私もまだ大学の近くに住んでいたので、当日エミリーさんからお誘いのメールを頂き、お祝い会に参加しました。ポール(ミルグロム氏)とアルは仲が良くて、他にポールの元教え子や、ボブ(ロバート・ウィルソン氏)の学生なども来ていました。
私にとって、ポールは大学の同僚でしたが、メンター(指導者)のような存在でもあります。約10年前に私がスタンフォード大に就職した後、経済学部で研究分野も同じ「マーケットデザイン」(編集部注:ゲーム理論の研究分野の一つ)でしたし、時には共著論文も執筆するなど、良い関係を築かせてもらいました。
彼は、私が学生の頃から知っている研究界の大御所で、正式には上司・部下という関係ではなく対等な立場にありますが、個人的には上司のような存在だと感じていました。ボブはアルとポールの両方を教えていたので、アカデミック的に私はボブの“孫”に当たるような関係でもあります。
――お祝い会でのやりとりで印象に残っていることはありますか。
ノーベル賞受賞の先輩として、アルのアドバイスはユニークでしたね。彼は冗談交じりに、ポールとボブに対して「ノーベル賞を取ったら、自分たちの知らないことも聞かれるから頑張ってね」とエールを送っていました。
例えば、「今年のチリのGDP(国内総生産)成長率はどうなるかなんてことまで聞かれるから、分からないだろうけど頑張ってね」と(笑)。続けて、そんなときにどうするかのこつとして「GDPがどうなるかすぐには分からないが、国の生産力を上げるにはマーケットをうまくデザインする必要がある」というふうに、自分たちの得意分野に引き付けて答えればいいんだと話していて、うまいことを言うなと思いましたね。
――そんな2人が今年のノーベル賞を受賞する理由となった研究の内容について、なるべくかみ砕いて教えてください。