顧客の急拡大に成功したコンシェルジュMVPとは?

クラウドワークスは、サービス開始後3年という短期間で、なぜ、上場できたのか?田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務める。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規 事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『起業大全』(ダイヤモンド社)がある。

 初期のクラウドワークスは非常に戦略的に展開していった。最初に、凄腕のエンジニアが集うハッカソンに、創業者の吉田浩一郎氏が自ら行ってスポンサーとして、ピザなどを提供した。そこで軽いトークを行い、凄腕エンジニアの登録を促した。

 そしてある程度、エンジニアの数が増えたら、そのエンジニアをランディングページ(LP)に載せて、新たにエンジニアを募集したら、一気に登録エンジニアが1300人に拡大した。この登録エンジニアのリストを吉田氏自ら、ターゲットとなる企業に売り込みに行ったのだ。

 これは、コンシェルジュMVPと言って、スタートアップ業界では有効な戦略とされている。つまり、ニワトリとタマゴのジレンマを解消するために自ら動いてマッチングを図ったのだ。

 初期のクラウドワークスの勝因は、ターゲットとなる職業をプロのエンジニアに絞り込んだことだ。ライターのほうが母数は多いし、「デザイナーも取り込まないとうまくいかないのではないか」という懸念がありながらも初志貫徹した。

 そして、エンジニアの登録数が一定数以上になったところで、ライターやデザイナーなど他の職種に対象領域を広げていった。結果、スケールにも成功し、ローンチ後わずか2年9ヵ月で上場を果たしたのは、PMFフィージビリティとスケーラビリティの両軸を満たす戦略を持っていたからだろう。

 クラウドワークスの特筆するべき点は、他にもある。PDCAのCつまり、指標の磨き込みに余念がなかったというところだ。初期の頃から管理画面を作りKPIをかなり細かいところまで設計した。

 PMFを達成するための1つの重要な前提条件として「顧客の成功を定量化すること」がある。

 これは、結果指標(LTV:顧客生涯価値/ARPU:一契約者あたり売上等)の前提条件となる先行指標を明らかにしていくことに他ならない。各チャネルごとのユーザーパフォーマンスの計測も精緻にやる必要がある。獲得チャネルごとの、CPA(顧客獲得単価)、DAU(1日あたりのアクティブユーザー)、ARPU、LTVなどを計測する。

 起業家の典型的な思考パターンとして、PDCAのうちP(企画/計画)とD(実行)を率先してやりがちだ。しかし、PとDばかりやってしまうと、C(顧客の成功を測る指標設定)が疎かになり、PMFが遠のいてしまう。

 限られたリソース(資金や時間)の中で、燃え尽きる前に、PMFを達成するには、PとDを限定的に行いC(計測とその振り返り)に注力することだ。