「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――。
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していく。
国内のスタートアップの資金調達額は、2019年に4462億円
おかげさまで前著『起業の科学』(日経BP)は、起業家や大手企業の新規事業部門立ち上げ担当者など多くの方にお読みいただいた。同書は、起業家が市場で顧客から支持される製品やサービスを作る(Product Market Fit=PMF:市場で支持される商品やサービスを作ること)までに必要な知識をまとめたものだ。
書籍発売から2年以上が経過し、その間スタートアップ、社内起業家、自治体関係者など数千名以上に直接会う機会があった。また、数千に及ぶ事業やあらゆるスタートアップ経営者のメンタリングやアドバイス、評価等を行ってきた。
現在、国内のスタートアップの資金調達額を見ると、2019年に4462億円となっている(下図)。2010年に705億円だったことを考えると、実に約6.3倍に増えているのだ。スタートアップを目指す人はかつてない勢いで急増していることを肌で感じている。
しかし、市場に資金が潤沢になり、資金調達できるスタートアップが増えた一方で、IPO(株式公開)までブレイクスルーできる企業は「ほんの一握りである」のが現状だ。日本では、評価額が10億ドル以上ある未上場企業、いわゆるユニコーン企業は、プリファードネットワークス/スマートニュース/TBM/リキッドグループ等の5社程度しかない。
アメリカは100社以上、隣の中国は50社以上もあることを考えると、その差は歴然としている。GDPでは中国に抜かれてしまって、世界3位になったが、それでも日本は経済大国であることには変わりない。
また、私は、ユニコーンというのは、ただ単なる「時価総額が高い」未上場スタートアップとは考えていない。ユニコーンとは、「産業を生み出し、明日の世界を創造する担い手」として考えている。
2000年代にGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)が勃興した。4社足して、300兆円に迫る時価総額は凄まじいが、本質は、彼ら4社がもし、この瞬間世の中からいなくなると、世界全体が大きく後退するということだろう。スマホもなく、検索エンジンがない、人々は簡単につながることができない、簡単に買い物することもできない、好きな動画を観ることもできない世界がどれほど不便かを想像してみてほしい。