1つ目の理由は、「日本はやさしい」からです。

やまおか・ひろみ/1986年東京大学法学部卒業後、日本銀行入行。1990年米カリフォルニア大学バークレー校ロースクール修士。2007年国際通貨基金(IMF)理事代理、12年バーゼル銀行監督委員会委員、13年日本銀行金融市場局長、15年同決済機構局長。主な著書に『金融の未来』など。 Photo by T.S.

 どういうことかというと、デジタル化の推進で必ず議論の俎上に上がるのが、「デジタル化の波に乗れない人をどうするか」という話です。日本では多くの場合、そういう人たちのためにアナログの選択肢を残します。しかし、北欧では違います。アナログの選択肢を残すとデジタル化のスピードが遅くなりますし、非効率です。スウェーデン中央銀行の総裁は、「われわれのような国は非効率性を抱えている余裕はない」とはっきり言っていました。

 ただし、デジタル弱者を切り捨てるわけではありません。全員にデジタル化してもらうわけですが、「デジタル化の波に乗れない人には乗れるようにきちんと教えます」という対応を取るのです。

 2つ目の理由は、「行政の壁」です。

 エストニアでは、原則全国民が保有する電子IDカードがあるのですが、これ1枚で身分証明証にも運転免許証にも健康保険証にもなります。エストニアは、これらを所管する省庁が全て同じだったのです。いわば、国全体が「デジタル庁」といえます。

 一方、日本は所管省庁が分かれており、個別の省庁が首を横に振れば、マイナンバーカードにさまざまな機能を一元化する、といった話も終わりになってしまう。マイナンバーカードは一例ですが、こういった話はあらゆるデジタル化政策に付いて回ります。ここに北欧と日本の大きな違いがあります。

 3つ目の理由は、「国民感情」です。国家のデジタル化は、国民全体のデータベースを構築することができるかどうかが重要です。そして、このことに対する国民の感情が、その成否を決めます。

 北欧は国民と政府の距離が近い。政府に対する信頼が厚いが故に、多くの国民が国のデータベースに個人情報を預けることに納得しています。

 中国のように半強制的に国民の個人情報を国が収集するのではなく、北欧のように民主国家としてそこまで持っていけるか――。日本がデジタル化を推進するためには、ここが重要です。