準備しなければ何もできない
準備以上のことはできない

 実際、台風10号が接近した際、ホテルや旅館を避難所として活用した市町村は2%だけで、98%は見送ったことが10月31日までの内閣府調査で判明している。名乗りを上げた施設が即、福祉避難所として機能できるわけではないのだ。

 見送った理由として報道では「必要ない」「空室を確保できない」との指摘が出たとされているが、本当だろうか。「必要ない」と指摘した自治体には「要配慮者への周知は徹底されているのか」「空き室を確保できなかった」という自治体には「市や県をまたいでの広域避難の可能性は検討していなかったのか」と聞いてみたい。

 これをちゃんとやってもらわなければ、素早い情報収集と行動ができて、お金がある人でなければ、安心安全な避難所に入れないことになってしまうのではないだろうか。

「空き室がない」と断った宿泊施設側にも問題がある。

「旅館組合に入っている施設の場合は、近隣の宿泊施設と連携し、空きが全て埋まってしまった際には互いに空きを案内することで住民の迅速な避難につなげる準備ができています。今後はそうした連携の強化も求められていくでしょう」(高尾さん)

 高尾さんによると、宿泊施設側の認識として最も見落とされているのは、対象となる避難ケースが2通りあることだという。

「地元が被災地あるいは被災する可能性があって地元住民のための避難所になる場合と、巨大台風や津波の難を逃れるために関東であれば東京都などからの広域避難者を受け入れる場合との2ケースがあるのですが、宿泊施設側はだいたい前者のケースしか念頭にありません。

 前者の場合は近隣から徒歩や自家用車でバラバラに集まってくるイメージですが、後者は大型バスで一気にやってくる。チェックインのやり方や誘導からして異なるノウハウが必要です。また地元が被災地である場合には、施設自体が被害を受けて停電・断水している可能性もありますし、従業員も被災者である可能性が十分あります。福祉避難所は、そうした状況でも避難者を受け入れる。当然、できることは限られ、普段のような“おもてなし”はできません。

 宿泊施設側の皆さんには、それぞれのケースで起こりうることをしっかりとイメージした上で、準備してもらう必要がある」

 福祉避難所になれば、災害時であってもある程度の収益は約束される。だが一方で、予想外の事態に対応しなければならない苦労や、自身も被災者でありながら、避難者に対応しなければならないことへの葛藤も生じる。

「準備しなければ何もできないし、準備した以上のことはできないんです。我々は『借り上げ福祉避難所(宿泊施設避難所)推進プログラム』の研修を通して、施設の責任者と従業員の皆さんに、こうした危機意識を共有してもらいたいと思っています。

 それには研修ではどんどん「失敗」して課題を洗い出していただき、改善の準備をしてもらうことが大切です。何よりも、絶対にマニュアル通りにはいかないという覚悟と対応力を身につけてしてもらうことが必要です」