フェイスブックの持つビッグデータの資産価値は、
50兆円以上

フェイスブックもトヨタも<br />利益は同程度なのに、<br />なぜ、時価総額は倍以上ちがうのか?田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務める。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規 事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『起業大全』(ダイヤモンド社)がある。

 フェイスブックの利益は2兆円程度だが、高いPER(株価収益率)が付いて時価総額は50兆円を超えている。

 一方でトヨタもフェイスブックと同じくらい利益を出しているが、PERは8倍しかついておらず、結果として、時価総額は21兆円になってしまっている。

 これが何を意味しているかというと、マーケットは、トヨタが持つ33兆円という巨大な設備よりも、フェイスブックが持っているとてつもないデータ量、ビジネスモデル、ネットワーク効果のようなディフェンシビリティ・アセットをより評価しているということだ。

 ちなみに、経済学者の野口悠紀雄氏によるとグーグルが持つビッグデータの資産価値は6822億ドルでフェイスブックは5486億ドルという(『データ資本主義 21世紀ゴールドラッシュの勝者は誰か』野口悠紀雄著、日本経済新聞出版)。

 一方で、売り手や買い手を結びつけるビジネスを行うならば「相互補完ネットワーク」「ツーサイドネットワーク効果」の構築が重要なキーになる。すでに説明したように、売り手がいなければ買い手も集まらず、買い手が集まらなければ売り手も集まらない「ニワトリとタマゴのジレンマ」に陥ってしまう。それを前述した戦略(コンシェルジュ戦略やパイプライン戦略)をもって解消し、ネットワーク効果を構築できれば、大きな持続的競合優位性資産になる。

 スタートアップが活用するべきネットワーク効果としては、「間接的ネットワーク効果」というものがある。間接的ネットワーク効果とは「そのプロダクトの補完的なサービスやプロダクトの使用量が高まると、結果としてそのプロダクトの価値が増加する効果」というものだ。具体的に説明しよう。

 フェイスブックは、2007年よりF8といって、フェイスブックの上で、プロダクトを開発する開発者や起業家向けの大規模なカンファレンスを行っている。こういうリアルイベントに加えて、フェイスブックはユーザーのソーシャル関係を簡単に利用できるグラフAPIや、ユーザーがフェイスブックを利用して他のサービスやアプリにログインできるフェイスブックコネクトを打ち出している。

 これにより、開発者は様々なアプリケーションを開発してフェイスブックのソーシャルグラフ上でディストリビュート(配信)することができたり、ユーザビリティの高いアプリケーションを開発することができた。例えば、ソーシャルゲームを展開するジンガは、このプラットフォームを活用して、大きく成長した。

 また、スタートアップが保持している、顧客だけではなく実際ビジネスを推進するための取引先、アライアンスパートナー、サプライヤーとの関係性も重要な持続的競合優位性になる。メルカリは、上場時に高い時価総額がついたが、それは、出品者数の多さや、様々な事業会社(ヤマト運輸、日本郵便)との連携が評価されたからだろう。

 それ以外にも、エアビーアンドビーが持つホストとの関係性、クラウドワークスが持つフリーランサーとの関係性、ラクスルが持つ印刷業者との関係性など、関係性構築にリソースやノウハウが必要になるものも、貴重な持続的競合優位性資産になるのだ。

 例えば、マイクロソフトは2016年にリンクトインを262億ドルで買収した。しかし、同社の簿価は70億ドルだった。残りの192億ドルは、どこから算出されたのかというと、リンクトインの4億人登録ユーザーが持つ「関係性価値」だ。