「BLM」で炎上した日清食品と
称賛を浴びたナイキの差とは?

 米国でアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害された事件がきっかけとなり、世界各国で人種差別に抗議する「BLM(Black Lives Matter、黒人の命は大切だ)」運動が広がっていった。

 20年9月に行われたテニスの全米オープンでは、大坂なおみ選手が着用するマスクを通じてBLM運動を支援する意思表示をしたことが、国内外メディアで取り上げられた。大坂選手は1回戦から決勝まで、過去に警察などの暴力の犠牲となったアフリカ系アメリカ人の名前が印刷された7枚の黒いマスクを用意。犠牲者の命を尊重する意味を込めた「BLM」マスクを着用して試合に臨んだ。

 世界的に注目が集まる全米オープンの場で、人種差別に「NO」を突きつけた大坂選手の毅然とした姿は、人種的マイノリティーをはじめとする多くの人々を勇気づけ、称賛を集めた。

 そんな中、大坂選手のスポンサー企業でありながら、批判を浴びることになってしまったのが日清食品だった。日清食品は、BLM運動に逆行する行動をしたわけではない。そもそも批判の対象は、米国での事業活動でもない。では何が問題となったのか。

 日清食品は、全米オープン開会直後の20年9月1日、大坂選手が2年前の全米オープンで優勝した後の記者会見で語った「原宿に、行きたい。」という言葉を添えた、同選手の写真を公式ツイッターに投稿。「ついに始まるグランドスラム!どんな応援をすれば大坂なおみ選手の勝利に貢献できるのか色々と考えた結果、大坂さんのことを好きになってもらえたら勝ちだなという結論にたどり着いたので、かわいい情報を置いておきます。大坂選手、頑張れ!」といったメッセージを添えた。

 大坂選手の魅力を伝えようという趣旨の広告だったが、これが、批判の火種となった。このツイートには600超のコメントが書き込まれ、その大半が批判的だったのだ。

 世間では大坂選手の「BLMマスク」が注目と賛同を集めているのに、彼女のそうした社会的な姿勢には注目せず、「かわいい」などというコメントに終始したことが、ファンや同選手の活動に賛同する人々の怒りを買った。

「BLM運動に言及せず、大坂選手を『かわいい』というイメージだけで語ろうとするのはいかがなものか」「大坂選手の意思や人格、生き方を尊重していない」といった趣旨の批判が集まってしまった。

 ここで比較対象として取り上げられたのが、同じくスポンサー企業として同時期に広告を出していたナイキだった。ナイキは20年9月13日、公式ツイッターに「この勝利はじぶんのため この闘いはみんなのため」というキャッチコピーが添えられた大坂選手の写真を「#YouCantStopUs」のハッシュタグとともに投稿した。

 SNS上では、日清食品とナイキの広告表現を比較する投稿が相次いだ。日清食品を批判し、ナイキを褒めるような内容だ。ナイキがBLM運動支援の意思表示をした大坂選手の姿勢を肯定的に受け止めて、サポートする趣旨のメッセージを発信しているのに対して、日清食品は、この世情に応じた言及が一切なかったことが問題視された。

 発信した内容や表現への批判というよりも「言及しなかった」こと、つまり「沈黙した」という姿勢が批判されたという点で、この事例は昨今よく見られる「広告炎上」のケースとは大きく異なる。

 人権の分野では、自社のスタンスを明確化して発信することが企業に求められ始めている。「センシティブな問題なので言及しない」「沈黙は金」といった保守的な姿勢はもはや通用しなくなりつつあるのだ。